第87号:安定企業であり続けるための先読み力


 「主要取引先が超安定企業だから、うちの会社は事業の心配はいらない」と、打ち合わせをしていた社長が言い切った一言です。この話をした数年後に、事態が急変しました。この主要取引先である超安定企業が、事業再編を実施というニュースが取り上げられました。

 安定的に事業展開ができている企業ほど、似たような思考を持ちやすい傾向があるのではないかと考えています。これは経営者に限った話ではなく社員も同様で、「うちの会社が築き上げてきた構造は、そう簡単に崩れるはずがない」と信じて疑わない節があります。

 一般的に言われる話ですが、過去の成功体験のインパクトが大きいほどその呪縛から抜け出すことができなくなります。成功へと導いた考え方や行動は、より一層強固なものとなり、新しい取り組みを妨げる要因となることは広く知られていることです。

 つまり、うちの会社は大丈夫だと言い切る背景には、事業を継続して営み続けている現状そのものが成功体験であり、それを疑うことはナンセンスと捉えているように見えます。あるいは、何かが起きるかもしれないと考えれば、それは自分たちが行ってきたことや日々の活動の見直しや修正を求められる可能性があります。

 現状の課題、問題、新しいやり方を考える時に、よりよくしたいと前向きな感情を抱ける方は少数派です。「なぜ、今のやり方に問題があるのか」、「目の前にある業務効率を高めることが最優先だ」、「やることを増やさないでくれ」と怒りや不満を覚える方々が多数派です。

 経営者であれ社員であれ、これまでやってきたことを変える、捨てることは簡単なことではありません。現在に至るまでに培ってきた実績や経験をもとにした価値観や考え方は、年齢を重ねれば重ねるほど揺るぎないものとなっていきます。もちろん、普遍性のある事柄についての持論であれば、話は別です。

 全員がそうだとは言いませんが、大概の持論は妙なこだわりで、未来を約束できるほどのものではないでしょう。「うちの会社は大丈夫」という自信は、過去の蓄積から生まれるものであり、将来を保証するものでないことは誰もが知っていることです。

 ましてや、これだけ事業環境の変化が激しければ、これまでやり続けてきたことを継続することの方が難儀です。それにも関わらず、事業の先行きを楽観視してしまうのは、「これから先に起きそうなことを予測できない」、「世の中の変化に鈍感である」、「新しい知識やスキルの身につけない」などといった原因が考えられます。

 しかしながら、経営者がこのような課題を抱えていたとしても、それを指摘する人もご本人が確認する術も非常に少ない現実があります。それゆえ、このような企業は、問題が起きた時に対処する時に火事場の馬鹿力を発揮することが得意となる傾向があります。

 それはそれで必要なことではありますが、あまりにも場当たり的です。ベンチャー企業などのように、動きながら組織や事業を構築していく段階にあるならまだしも、既に安定的に事業運営を行うことができるようになっているのであれば、「自社が永続的に事業を続けていくことができるか」のかと自問することを本気でお勧めします。

 自社が本当の意味で成長しているか、長く存続し続けることができるのかを検討することは、未来を考えることにもなるのではないでしょうか。