第90号:なぜ、職場にはやる気がない人が増えるのか

 「社員のモチベーションを上げる研修をしてください。」と真正面から言われると面食らってしまうことがあります。このようなご相談を何度も頂いたことがありますが、その度に強烈な違和感を覚えます。巷に転がっているやる気のない社員問題は、研修をすれば解決するようなことなのかと疑問を感じます。

 やる気という一言は、社員に是正してほしい言動がある時に使われがちです。抽象度が高いが故に、問題行動の根本原因は、「気持ち」にあると言っているように感じることが多々あります。それは間違いではないとは思いますが、その表現をすることで何か大事なことを見逃してしまっているのではないかと危惧しています。

 経営サイドにいる方々が、社員のやる気について言いたいことがあることはよく分かります。その皆さんは、何事にも前向きに取り組み、進んで物事を解決しようと努めてきています。他者よりも熱心に仕事をし、秀でていたからこそ、今の立場を得ているはずです。

 他者との競争の中から勝ち上がってきているご自身と社員を比較した際に、物足りないと感じる点を一言で「やる気がない」と表現してしまっていることがあります。

 そもそも論になってしまうかもしれませんが、仕事はやる気がないとできないものですか?

「何を言っているんだ!」と怒られてしまうかもしれませんが、働く目的や職業人としての目標も人によって異なりますし、モチベーションの源泉も人それぞれです。この前提を元にして、業務は成り立っているはずですから、熱量がなければ成果が出ないことの方が問題なのではないでしょうか。

 どれだけ目的意識や使命感が強く方でも、やる気は浮き沈みがあるのは当然のことです。その度に、仕事の結果が左右されてしまうのであれば、押さえどころがズレている可能性があります。こうした職場でよくあることは、業績を上げる集団としての機能を果たせなくなっていることです。

 分かりやすい例ですが、職場でやる気を削がれていることがあります。上司、先輩、同僚、顧客、業者などいった人間関係に消耗している社員たちがいます。誰が良いか悪いかの話は別として、その部門や部署では、仕事の要所に対する共通見解がありません。

 さて、やる気がないと仕事ができないのかと問いましたが、実はできないこともあります。それは、会社が合わない、仕事が合わないという時です。やる気を分解してお伝えするならば、社員本人の満足度に関わることです。

 少し極端な比較になりますが、変化や挑戦が好きな会社に、決まったことをじっくりと取り組みたい人は馴染みにくいです。新しいアイディアを出すことが求められる仕事は、過去のデータを集めて比較検討することが好きな人にとっては苦痛でしかありません。

 会社や仕事の合う・合わないは、経験によって変わっていくこともありますので、あまり決めつけることもないかもしれません。しかし、人は何によって動かされるのかを度外視することによって被る損失は、金銭的なものだけではなく、先に挙げたように人間関係にも波及してしまいます。

 組織としてよりよい成果を生み出していくためには、社員の気持ちや熱意は大事です。しかし、全ての事柄がやる気に起因されるわけではありません。当たり前の話ですが、その原因と対策を講じることが必要です。

 あなたの会社の社員たちは、やる気に満ちていますか?
 あなたは、職場でメンバーとともに、共通見解を見出していますか?