第60号:社長は知らない経営幹部の不都合な真実

 「うちの中間管理職は、何度言っても仕事の本質を理解しないんです。だから、一社員と同じようなことを平気で言うし、仕事のやり方も変えないし、疑問すら持たないし、全く成長しないんです!」とある組織で部長をなさっている方の嘆きの一言です。

 この部長のように、仕事の視点が変わらない役職者たちに諦めのような感情を抱いている方は多いのはないでしょうか。「肩書が人を育てる」と言われますが、「職位が変わったからと言っても、仕事が変わるわけではない」と言い切ってしまい、視点を切り替えることができない人は実はたくさんいます。

 言葉尻を捉えて突っ込んでいるだけだとおしかりを受けるかもしれませんが、本来的には、求められることは変わります。ですから、仕事が変わるわけではないと断言している方々は、成果や結果に対する認識が甘いと考えています。

 擁護するわけではありませんが、このような方々は、自分の担当している業務をきちんとやり遂げたいという責任観や正義感を強く持たれています。没頭するという言葉を使えば、なるほどと思って頂けると思いますが、見えている範囲が狭すぎるということです。

 観点を違えるのならば、視座の低い役職者を生み出している構造があるということです。その要因の1つは、経営幹部の「人を活かして、伸ばす力」が低いことです。「人を活かして、伸ばす」ということは、自部門が果たすべき役割・機能、求められる結果が明確になっていなければなりません。

 達成すべきことが鮮明であるからこそ、そのために必要な専門性や能力を見極めていくことができます。ところが、自部門の役割や目標を言えないという経営幹部は一定数存在しています。なぜ、この人がこの職位に?と思ってしまうような、明らかな人選ミスをしている会社は「人を活かす力」が高いとは言えません。故に、自部門の社員たちの能力・適正を把握していないことも珍しくありません。

 ある上場企業の事業本部長が、「なんで、あの人を採用したんだ!と怒りたくなることがあるけど、もう既に時遅しなんですよね。」と部長陣の決定に対しての不満を語っていました。経営幹部といわれる層の実態を経営者が、どの程度把握しているかは分かりません。

 しかし、経営者が掲げるビジョンの実現には、社員たちの力が必要不可欠です。特に、経営幹部の指揮官としての能力は、極めて重要な要素です。采配を間違えれば、資源はみるみるうちに減っていくことは簡単に想像できます。あるいは、焦りを生む様な状況に陥ってしまえば、無茶なことに手を出して、とてつもない損害を生んでしまう可能性すらあります。

 バブル崩壊後、リストラ対象となった管理職たちに仕事の能力について問うたところ「部長ならできます」と、答える人が多かったことが人事界隈では笑えない冗談として語り継がれています。以前のコラム「第29号 経営者がいまさら聞けない幹部社員を育てる視点」でも触れていますが、自律的に組織が進んでいく道を開拓する力を持った経営幹部の存在が、会社の未来を作っていきます。

 組織を動かしていく上で、経営幹部の存在は意義深いものです。それを理解しながらも、その選定基準をあやふやにしている経営者は多いのではないでしょうか。

 10年後、あなたの会社を次のステージへと引き上げていくのは、誰ですか?