第75号:人材の資産価値を高めるリーダーたちがしていること

 人的資本経営という言葉は世の中に定着してきましたが、実際はその目的があいまいなままに対外的な対応の一環として捉えている企業が多いのではないでしょうか。一方で、事業環境の変化、社員一人ひとりの価値観や考え方が多様化し、それぞれを尊重する時代へと変化していることを肌で感じていることだと思います。

 背景や状況は様々でしょうが、社員を大事にする経営姿勢がこの数十年間の中でもっとも強く意識されている時期のように感じています。この流れはよいことだと考えていますが、その反面で、懸念していることもあります。やり方だけを真似し、それを行う目的を蔑ろにしてしまうことです。

 本来的には、人材の資産価値を高めることは、自社の企業価値や事業価値を向上させていくことに繋がっています。そうした趣旨に目もくれず、「コーチングすれば、社員が勝手に考えるようになる」、「1on1をすれば離職率が下がる」、「研修を増やせば事業効率が上がる」と「実施したこと=成果に直結する」と思い込んでしまう方々がいらっしゃいます。

 前回のコラム(第74号:社員たちとの話し合いを大事にしたい人が陥る罠)で書いていますが、リーダーシップを発揮して事業をどのように展開していきたいかが、明確化していなければ、そのために実施する施策は中途半端な形で終わってしまいます。

 ある会社では、管理職に対して部門内の活性化施策の実施、部下との面談の推奨をしています。こうしたものを上手く活用している方と、そうでない方を比較すると次のようなことがはっきりとしてきます。自部門の状況に対する理解の度合、部下たちのスキルや能力に対する把握度合、目標達成に向けての介入の度合などに明らかに差異が生じてきます。

 このような差は微々たることのように捉えられますが、現実にはかなり大きな差を生んでいます。その1つに挙げられるのが、事業展開との連動性です。つまり、自部門で取り組むべき事柄をいかに、迅速かつ正確に推し進めていけるかを描いていく際に、必ずマンパワーを考慮しているかです。

 少し偏った表現をしますが、頭の切れる上司は、その思考力に頼り、絵に描いた餅になることもあります。それとは逆に、人情派の上司は、昔気質のやり方にこだわって、戦力の見極めができないということもあります。例としては極端ですが、実績を上げている部門は運がよいというわけではなく、業績をあげるためにリーダーシップを発揮しています。

 面白いことにこうした事例には、続きがあります。部門の事業展開のその後が見えることです。当たり前の話ですが、部門を活性化させようと努めている上司の下では、目標達成はもちろんのこと、まるでゲームを楽しむかのように仕事をしています。

 私たちの中にある常識、つまり、仕事はつまらなく、大変であることが当たり前だという発想とは、全く異なる考え方で部門が動いています。これまでの常識や慣例に囚われることなく、やるべきことを確実に手にする方法を徹底的に考え、実践していくことのすごさを垣間見ることができます。

 人を大切にすることは当然のことです。しかし、その当たり前のことができなくなった現在だからこそ、人材の資産価値を上げようと言わなくてはいけない状況になっていることも事実です。人材の資産価値を上げることは、目的ではありません。

 あなたは、組織の事業引き上げていくために何をしますか?