第78号:上司は部下に何をした!? ―思い通りにならない部下にキレる上司―
上場会社で役員をされていた方とお話する機会を頂きました。人事に携わるお仕事をされてきたということもあり、これからの人事や組織に対する考えをお伺いしたい!とお話をさせて頂くことを楽しみにしておりました。
話の中心となったテーマは、部下のキャリアビジョンに関することでした。ふと思い出したかのように、ある部下との面談について語り始めました。「僕はね、変化とか変革が大嫌いなんですよ。現状維持が何よりも優先されるべきと、信じているところがありまして・・・。」と、ご自身の価値観とともに、部下とのやり取りを詳細に教えてくださいました。
面談時の部下は、この会社の中で手掛けてみたい業務や将来展望について、嬉々として語ったそうです。主体的あるいは自律的にキャリアを考えていくこと求められている現状を考えれば、このような社員がいることを羨ましいと感じる企業の方々は多いと思います。
当然のことながら、この方も「社員自らがキャリアを描くことの重要性」は充分に認識しています。また、社内にもそうした社員を育成するための啓発活動も展開してきています。ところが、いざ自分の部下が将来展望を語り始めた途端に拒絶反応が出てしまい、「そんなことできるわけがないだろ!」と声を荒げてしまったそうです。
その一言では足りず、「金はいくらかかる?どんなリスクがある?そんな能力があるのか?」と質問攻めにしてしまいました。「現実なんてそう簡単に変わらないんだよ」ととどめの一言まで、付け加えてしまったことを打ち明けてくださいました。
部下との面談の重要性について、あちらこちらで話題に上る昨今です。では、わが社でも社員たちの声に耳を傾けようと、面談を行う会社が増えています。一方で、この事例のように、価値観や考え方が異なった時の対応を間違えてしまう上司たちは星の数ほどいるのではないでしょうか。
このケースからも分かると思いますが、上司と呼ばれる方々は「自己理解しているつもりで、自己制御の仕方も知らない」という現実です。この人事役員は、自分のことは自分が一番分かっていると言っていましたが、果たして本当にそうなのかと疑問が残ります。
仮に、自己理解が出来ていたとしましょう。価値観や考え方が異なる部下になぜ、言葉のナイフを突きつけたのでしょうか。要は他者の言い分を「受け止める」ことができなかったわけですが、受容できない理由を探る術、あるいは、適切な反応の仕方を身に着けていなかったことは見当がつきます。
このケースで最も考えなくてはいけないことは、上司が部下に与えた影響です。部下自身がどのように受け取ったかは定かではありませんが、この会社における仕事の価値を問い直す出来事になったことは誰でも想像がつくことです。「自分には会社の将来を考える価値がない、能力もない、成長する機会もない」という事実を突きつけられたわけですから…。
それは、部下の可能性や自社での未来を食いつぶしたことに等しいのではないでしょうか。見方を変えれば、他社への扉を開いたという意味では可能性を広げたことになるのかもしれませんが(笑)。上司という立場にある方々の言い分には、「自分たちも否定されてきた」「なにくそ根性が必要なんだ」と過去の経験から得た確からしい何かを盾にして自分たちを正当化しようとします。
もちろん共感する点もあるので全てを否定する気はありませんが、ビジネスゲームのルールが変更しているのに、変更前のルールで戦いたいと意思表示する集団では勝てる気がしません。勝てる組織を作りあげる、維持し続けるためには、社員を使う時代から社員を活かす時代へと移行していることを理解しなければならないのではないでしょうか。
あなたは、部下に何をしていますか?