第82号:課長の成長から考える教育投資


 「管理職としての基礎知識を学ばせたい」、「いや、管理職として何をすべきかを考えさせるべきだ」とある会社とのお打ち合わせ時に出てきた部長陣の声です。課長陣の能力に課題を抱えており、それらを解決していくための話し合いをしていました。

 当然のことながら職位が上がるということは、これまで与えられてきた役割から新たな業務役割へと転換していくことが求められます。ところが、この転換を上手く成功させることができず、これまでの業務の延長戦上をウロウロしている方がいることは否めません。

 日本社会では、就職すると学ぶことを辞めてしまうきらいがあります。これは、世界の中でも非常に特異なことで、働きながら学ぶことが軽視されてきたことがよく分かります。その背景には、日本独特の雇用慣行による影響を強く受けていると考えています。

 特に、社内で必要な知識・技術・能力は、社内で付与する前提があり、入社直後の職位が低い社員ほど学びの場が与えられます。入社直後から手取り足取りケアすることは、口さえ開けていれば会社が口まで食べ物を運んでくれるような状態です。ごはんを食べていく術は、会社が用意するのが当たり前という勘違いを起こしても仕方がないように感じています。

 その一方で、注目したいことは、職歴も職位も積んでいる社員よりもより低い社員が豊富な教育投資の機会を提供されているという点です。これは、世界的にみればレアなケースです。リスキリングという言葉とともに、最近は話題に上がっていますが、このような事態に疑問を抱いていないことが不思議で仕方がありません。

 というのも常識的に考えれば、教育投資するのは「その後」に期待するからです。ですから、諸外国の企業では投資効率がよい層に機会を提供します。日本なりのやり方を貫くことを否定しているわけではないですが、企業における人材に関するお金の使い方は、人材難の時代においては極めて重要な要素になることは誰でも想像がつくことなのではないでしょうか。

 少し遠回りは展開になりましたが、実務的な観点で組織の要となるのは課長層です。この層における課題は、自分の役割を担当者と同等に捉えている節があることです。課長という職位に求められること、自らがすべきこと、部下に期待すべきことが明確になっていないために、ヤキモキとしてストレスを抱えていることも少なくありません。

 一人ひとりの状況は異なりますが、傾向としては、やるべきことは山ほどあるけれど、効率的に経営資源を動かすことができないことが多いように感じています。人や物を活かしていくための視点、方法が限定化されています。それを一日や二日の研修でなんとかしてしまおうとすることに、無理があります。

 企業内教育や研修の効果測定は、ある時ブームのように騒がれました。しかし、その議論が長続きしなかったのは、教育を単なる費用と捉えて単発、単年度のコスト計算を優先した結果のように思います。人がよい成果を出すのは、単一的な因果関係では言い合わらすことができません。様々な要因が相互に関係し合うことで、生み出されています。それらを軽視して物事を捉えようとすると、組織にとってより大きな損失を生み出すきっかけとなってしまうのではないかと思います。

 実務の中心を担う課長層には、言うまでもなく基礎的な知識は必要です。しかしながら、組織として適切な教育投資となりうるかを考慮に入れると、事業環境に適応していくための道筋を描き、その実現に向けて推進力を発揮できるように促していくことの重要度は高いのではないかと考えています。

 あなたの会社の課長陣は、最強ですか?