第85号:経営者が知っておくべき人生と仕事の関係
今後の事業についてある経営者の方と話をしている時、月日が経つのは早いと感じて思わず出た一言が、「そういえば、もう3か月も経ったんですね」でした。前社長が半年の余命宣告を受けて、その3日後に逝去されました。
夫婦二人三脚で事業を築き上げて、生活にもゆとりを持てるようになった頃にご主人が体調を崩されました。それから3年間の介護生活に入り、余命宣告を受けてからはとにかく慌ただしい毎日を送られていました。連絡しなければならない先は多い、やることは山積み、知らない・分からないことが多すぎると大混乱していました。
直接お話を聞いたわけではありませんが、この数年間、どんなに苦しいと思う状況に陥っても食いしばって乗り越えてこられたことは想像に難くありません。ところがある時から、弱音を吐くことが増えていました。毎日を乗り切るだけの生活から、やっと自分の心や身体と向き合うことができるようになったように見えました。
既にご存じの方も多いとは思いますが、ストレスの要因となる出来事の研究結果があります。ストレス強度に順位をつけると、「1位:配偶者やパートナーの死」、「2位:会社の倒産」、「3位:親族の死」、「4位:離婚」となります。
上記の他にも仕事や職場に関わる順位を見ると、「8位:多忙による心身の過労」、「10位:仕事上のミス」、「20位:労働条件の変化」、「22位:同僚との人間関係」、「25位:上司とのトラブル」というような結果となっています。会社の倒産は脇に置くとして、家族との離別はとてつもなく負荷が掛かることだということを改めて認識することができるのではないでしょうか。
家族との別れは辛く、悲しいことだというのは誰もが知っていることです。しかし、当たり前過ぎるからなのか、接し方が分からないのかは不明ですが、離別したばかりの方と周囲との関係がギクシャクすることがあります。手助けの嵐、腫物に触るような扱い、触らぬ神に…というようなこれまでとは異なった関係性に戸惑うことや、普段通りで自分の存在を軽視されている気分を味わったという話も聞いたことがあります。
言うまでもありませんが、人生と職業生活は密接に関わっています。ですから、ストレスに対応する施策を検討する際は、本来的にはこの両者に対応できることを考慮する方が理にかなっているのではないかと考えています。一方で、どうしても仕事、職場に限った部分に焦点を当て、そこで賄うことができないものは、福利厚生を活用するという発想もまた否定できません。各社が持っている人材観に基づいて最適解を導き出していけばよいと思います。
冒頭で紹介した奥様は、社長として経営を引き継ぐこととなりました。彼女の発する一言ひと言からは、不安や不満でどうにもならない状況に陥っていることが伝わってきます。前社長との比較、思い通りにならない社員、何をどのようにすればいいのだろうかと悩んでいます。
前社長が実現したいと願っていたことを自分ができるところまでやり遂げたいという想い、気持ちだけではどうにもならない現実、そうした混沌とした毎日の中で、社員たちが会社を助けようと努めている、退職した社員が戻ってきたいと申し出てくる、大手企業から声を掛けてもらい商機が巡ってきた、などさまざまな経験を積んでいます。
経営者として矢面に立ち、先も見えず苦しさの中で藻掻いていたことが、いつか笑い話になる日が必ずきます。経営者の考え方や経験が、人材に対するあり方に大きな影響を与えます。今が全てではないと思います。今思いつかないことは、後から見つけ出し、作り直せばいいだけです。そうした経験の全てが、きっとこれからのあなたを作っていくはずです。
あなたが、踏ん張るならば最強の見方であり続けたいと思います。