第89号:事業の明暗を分ける「上司の言い分」と「中堅の言い分」
「うちの会社は、お客さんが求めているものを作りません。僕たちは、お客さんが求めているものを作りたいんです!」とある製造業の中堅社員たちが、真剣な表情で訴えてきました。彼らは、「これがうちの会社の伝統だ」、「うちらしさを大事にしろ」と、顧客を全く見ようとしない上司たちの姿勢に対し、行き場のない怒りと諦めが入り混じった何とも言えない不燃焼感を感じさせるものでした。
上司には上司の言い分があるとは思いますが、経営者である皆さんはこのような中堅社員からの訴えをどのように受け取りますか?社員たちの意見に対する見方は、経営者や上司の情報感度を知ることでもあり、それは経営を見通す重要な指標となることもあるのではないかと考えています。
中堅社員と一括りにしていますが、問題意識があり、向上心や成長意欲を持っている社員たちのことをここでは指しています。彼らは、よりよい仕事をするためには、顧客が欲しいと思うものを作りたいけれど、自社の慣習や伝統を重んじているだけでよいのかと疑問を投げています。
この投げかけは第1に、自社製品価値に対する問いです。彼らは、市場と対話し、顧客が購入したいと言われるものを提供すべきだと主張しています。言い換えれば、「うちの製品は古臭い。結局は値下げ交渉に応じるか、ゴリ押し営業で勝負するのはもう限界だ」と訴えています。
その反面、これまで売れてきたものは、「顧客からの信頼」「自社の伝統」があるからそれを守るべきだという上司陣の見解です。この意見の違いは、両者における自社製品の価値に対する観点が大きくことなっていることがよく分かります。
中堅社員たちは「製品価値が下がっている」と見ているのに対して、上司陣は「製品価値が維持されている」と見ています。どちらの意見が正しいのか解を出すことは難しいですが、事業上の妥当解を出すとするならば、どれほど優れた製品があっても未来永劫その輝きが続くわけがありません。
従って、現状の評価如何に関わらず、これから先、新たな手を打たなければ製品の価値は低下し続けていくことは明らかです。ですから、製品価値が維持されている今のうちから、将来の収益を確保するための製品開発や市場分析などに手をつける必要があります。
さて、第2の投げかけは、上司力に対する問いです。中堅社員たちは、「上司陣がこれまでの経験や勘に頼り、市場を正しく把握する力がないのではないか」、「時代に応じたやり方を見つけることができないのではないか」と、仕事の質を高める意識の欠如を疑っています。それと同時に、この会社にいて自分の市場価値は大丈夫だろうかと不安を抱きます。
企業各社、各部門は各々の戦略に乗っ取りビジネスをしていると思いますので、ここで挙げたことが全て当てはまるとは言えません。とはいえ、何かしらの問題意識を持った社員の声を、誰がどのように拾うことができるのかは人材活用の視点から考えると極めて重要なテーマです。
ただ闇雲に話を聞いた方がよいのでは?と言っているわけではありません。聞くに値すべき内容と聞かなくてもいいことが、ごちゃまぜとなり勝手に社員の言い分を決めつける、想定している方がいます。情報に対する感度というのは、興味や関心に紐づいていきます。
つまりは、経営として把握すべき情報を見逃してしまえば、自社の衰退化を招くこととなります。あなたは、この中堅社員からの問いに、どのように答えますか?