第91号:成長し続ける企業の決め手

 「うちの業界は、人材不足が深刻です。人を採用しても、休職や退職が出ないように注意して接しないといけないので、気が抜けませんよ。」と飲食店の経営者から人材に関する話をお伺いしていた時のことです。聞けば、飲食業界は肉体労働かつ長時間労働になりやすいため、もっと楽な仕事をしたいと言って転職していく社員が多いとのことでした。

 このお店は、都内有名商業施設に入り、評判も上々です。商業施設からの引き合いが多く、多店舗展開をしています。顧客としてスタッフの動きを見る限り、キビキビとし、にこやかでフレンドリーに接客しておりとても好感を持ちました。その様子から退職者が多く、困っているとは想像すらできませんでした。

 これは極めて重要なことを示唆しています。どこの会社でもあることだと思いますが、顧客のニーズにあったものを提供していない、現場を度外視したような指示がある、人員が補充されない、などといった本社・本部と現場の連携が上手くいかないことがあります。

 その結果として、現場の社員が顧客からの苦情や不満をぶつけられることもあれば、現場監督者などの上位者が、その事態の収拾を図り、社員のケアにエネルギーを注がなければならないこともあります。仕事ですからこのような対応は当たり前なのかもしれませんが、事業としての歯車が上手く回っていないように映ります。

 現場あるは本社のどちらに問題があるのかは、さておき、自社の事情や都合によって顧客に不快な思いをさせないことは、ビジネスにおいては基本的なことです。顧客対応するスタッフや社員には、それぞれの立場や事情があると思いますが、そうした個別状況は顧客には全く関係ないことです。

 企業が長く成長を続けていくために、商品や製品に対する価値の創造に力を入れています。半面、それをどのように提供すれば顧客の満足度が高まるのか、ありがたみを感じてもらえるのか、などといった提供の仕方に対する価値を追求していく意識が低いように感じることがあります。

 商品や製品の性能、価格、専門性、事業の圧倒的な優位性を構築するためには、このような観点が必要不可欠です。それ故、実質的なものに焦点を当てて、顧客との関係構築は現場に任せればよいと考える傾向があります。これは事業構築に対する考え方なので、安易には否定することはできません。

 しかし現実問題としては、売る側(顧客対応する)にいるスタッフや社員の対応が、提供(サービス)の価値を決めていきます。企業側は、敢えて顧客に気を使わせる・嫌われるような対応をしているとは思いませんが、顧客との関係をどのように築き上げいくべきかを設定しきれていないのではないでしょうか。

 冒頭の飲食店の話に戻りますが、「社員たちが今やるべき事に集中している」、「ゆとりやリラックスした雰囲気で接客する」、「てきぱきと行動し活動的な動作をしている」ことにより、顧客は食事と同時に、店員との会話や店の雰囲気を堪能します。

 どのような業界であれ、売るものがあっても買う人がいなければ商売にはなりません。よいものだから売れる、これは否定できませんが、それだけでは事業が永続的に成長することは難しいです。そんなことは言われなくても分かっているとは思いますが、経済的な合理性ばかりを追求して、顧客の期待値を限定的に捉えていることはないでしょうか。

 あなたの会社の顧客が、貴社に求めていることは何ですか?
 その期待に応えることができる人材はいますか?