第93号:できる社員のやる気を奪う上司の正体
「社員たちには、黙って言われたことだけをやって欲しいんです。口を開けば、文句ばかりで面倒なんですよ。」とコンサルティング中に、本音を話し手くださった経営者の一言です。このままでは頭打ちになってしまう、なんとかして社員たちを育て、事業を次のステージに移行させようと努めています。
この方に限った話ではありませんが、経営者や部下がいる方々のお話を聞いていると、部下から出てくる意見を「文句や愚痴」と決めつけてしまう方がいます。部下というのは、上位者の指示や命令に従い業務を遂行するものだという考えをお持ちで、自分に忠実であることを求めているように感じます。
目標達成や業績向上のためには、人材を使いこなす必要があります。部下たちの取り扱い説明書があるわけではないですし、個別のやり取りに時間をかけるのは難しいことです。そのため、言われたことを言われた通りにできる部下は扱いやすく、便利な存在となります。
「言われたことだけをやってほしい」と思ってしまうことは否定しませんが、「なぜ、そう思うのか?」という理由を知っておくことは、有用だと思います。例えば、「上位者に意見するなんて、生意気だ」、「自分のやり方は間違っていない」、「口答えする立場じゃないだろう」などです。このように感じる背景には、上司と部下の関係性、仕事への責任感など、ご自身が大事にしている価値観が存在しています。
それとは別に、部下に与える影響を考える必要があります。言い方はどうであれ、「余計なことをしないでくれ」と言われた部下は、その後どのような態度で仕事に取り組んでいくのかを想像してみてください。
若干の飛躍があるかもしれませんが、上位者に意見する方には、仕事をよりよくしたい、会社や組織に貢献したい、成長したいという思いを抱えていることが少なくありません。もちろん、「一言、いいたいだけ」、「単純に、頑張っているアピールしている」ということもありますので、その見極めは大切です。
大事なことは、部下が「何について」話をしているのかを、正確にくみ取ることです。その際に問題となることは、「そもそも聞く耳を持っているのか」、「相手の言っていることの真意を理解できるか」です。まず、「聞く耳を持っているのか」という点ですが、先ほど挙げた上司が重んじている価値観の影響を受けます。
上下関係がはっきりしており、「言うことを聞け」という考え方であれば、聞く耳を持たない、頭ごなしに否定するということは、部下の話は聞くに値しないと決めつけてしまいがちです。一般的には、この辺りを表面的に上手く取り繕い、話を聞いている雰囲気を出している方は大勢います。
次に、「相手の言っていることの真意を理解できるか」です。相手の真意を理解することは、日常生活でもビジネスでも推察が求められますので、非常に難易度が高いことです。管理職のレベルが低いが故に、部下が言っていることを理解できず、ビジネスチャンスを逃す、判断ミスを起こしてしまったという話はよく聞くことです。
優秀な社員が欲しいというお声は耳に胼胝ができるほど、聞きます。しかし、採用できた社員たちが、その力を発揮できる場がなければ、やる気を失い、退職していくことは必然の帰結です。社員のやる気問題を本気で解決するには、やる気の搾取・はく奪を防止する仕掛けが必要なのではないでしょうか。
あなたの会社の経営陣には、「聞く力」はありますか?