第96号:社長が考えるべき社員が辞めたくない会社作り

 「最近はオンラインでの仕事が増えて、通勤時間が減ったことはすごくありがたいです。ただ、部下たちが何を考えているのか、分かりにくくなりました。」とある企業で管理職をなさっている方との会話でお聞きしました。

 オンラインでの業務は、通勤時間を減らすことができ、面倒な職場内の人間関係から距離を置くことが出来るため、メリットを感じている方は多いのではないでしょうか。一方で、仕事とプライベートの境界線がなくなり、精神的に追い詰める、他者との連携やアイディア出しを行いにくい、業務の管理や怠けなどの判断が困難になるようです。

 コロナ過で急速に広まったオンラインの活用は、働くスタイルを広げました。そうした中で、週休3日制、全員出社を復活させるなど、自社にとっての最適な勤務形態を導き出そうとしている企業が増えています。このような話をすると、「うちの仕事は、絶対に出社しないとどうにもならないから関係ない」と語気を強める方がいます。

 本当に絶対がないのかと確認をしたいところですが、それは慎むとします。新しい技術や情報に興味がある方であれば、これまでの常識を覆すような製品が次々と登場しています。現場に行かなければ業務にならない仕事、ぱっと思いつくのは、工場勤務や医療従事者です。そのような仕事でも、技術を活用することで遠隔地から業務を行うこともできるようになっています。

 このようにわざわざ現場へと出向く、出社する、客先に訪問するなどといった移動時間を削減している企業もあれば、時間をかけてでも対面での対応を重視している企業もあります。大半の企業は、状況に応じて様々な道具を使い分けていると思います。

 さて、こうした勤務形態を受け入れる側である社員たちは、会社に対して何を求めているのか考えたことはありますか。小売業を営む経営者が「うちは給与が低いから退職者が出る」と愚痴をこぼしていたことがあります。給与が理由で退職するのは、ごく一部です。

 考えてみれば、多くの人は生活するために働きに出ます。しかし、仕事があれば何でもやると決めて、続けることができる人はそれほど多くはありません。また、採用試験に受からなければなりません。また、転職できたとしても、よりより賃金、人間関係、業務が与えられる保証はありません。

 ですから、一度手にした職を安易に手放す方が、実は難易度が高いという見方もできるわけです。退職理由については、本当の理由を突き詰めることが難しいですが、画一的に捉えると本質を見逃してしまうことがあります。

 人手不足に悩んでいる企業、不人気業界と言われる企業の経営者ほど、「社員たちは会社に何を望んでいるのか」といったシンプルな発想を失っているように感じています。「そんなこと知ったところで、社員の望みを叶えればつけ上がるだけだ」と指摘を受けるかもしれません。

 そのような企業では、わが社の流儀に合わせて仕事ができる人が欲しいという本音があります。人を動かすための論理や理屈は、会社ごとに違いますので、これは重要な要素です。しかし、自社の要が仇となって人員が充足しないのであれば、流儀を見直すなどの新たな手立てが必要となります。

 人が採れないなら、技術や機械を活用することで代用可能なこともあります。一方で、事業を発展させていく人材が必要なことには、変わりはないでしょう。人材不足が叫ばれている今だからこそ、社員たちが「喜んで働く」仕組みが必要になるのではないでしょうか。

 あなたの会社の社員は、喜んで仕事をしていますか?