第8号:社員にモテる社長が密かにしている特訓

 「大野さん、社員たちに会社の未来を話してみました。でも、自分が考えていることを伝えるのは、思っている以上に難しいですね。」  コンサルティングを受けた社長との会話での一言です。

 「社員たちに向けて、自分も頑張るから、みんなも頑張ってほしいという思いを込めて、自社の目指す方向について話しました。ところが、皆のすごく反応は悪い。それなのに、自分の気持ちは高まるばかりで…」と苦笑しながら、現状の報告を頂きました。

 やりたいことを人に話すというのは、気恥ずかしさを感じるかもしれません。話しはじめこそ、たどたどしいかもしれませんが、波に乗ってしまえば言葉が止まらない…、言いたいことが次から次へと溢れ出てきて、思いだけで、何を話しているか分からない、「言語明瞭意味不明」状態に陥ってしまう経験は、誰しも一度や二度はあるのではないでしょうか。

 常に勝ち続けている会社の社長は、経営効率を高める方策の一つとして、社員を上手く巻き込むことを選んでいます。社員の心をつかむ技を身に着け、その精度を向上させれば、やる気を刺激することができるからです。付け加えるなら、1円もお金が掛かりません。それにも拘わらず、社員たちが向かうべき先への士気を高め、活気にあふれる職場づくりが期待できます。

 社員にモテる社長は、 ここぞという時や重要な場面で夢や思いを語ります。そして、如何にして社員たちを魅了していくか、徹底的に研究して言いたいことが最も伝わる方法を駆使しています。

 社長が話し始めると、社員たちは目を輝かせながら、前のめりとなり聞き入ります。終盤に近付く頃には、「忙しい毎日は、確かな未来につながる」「努力が報われる日が来る」と希望を抱きます。そうして、「元気になれた」、「この会社に入ってよかった」、「社長についていきたい」と、前向きさを取り戻し、その世界観に引き込まれていきます。

 そういうのは、才能でしょ!とご指摘を頂くかもしれませんが、大きな誤解です。その要素がゼロとは言いませんが、人に影響を与える伝え方は確実に磨き上げることができます。

 社員たちの心をつかむために一言ひとこと、一挙手一投足に気を配ります。話し方、内容、身振り手振りなどふさわしいものを考え抜き、それを何度も繰り返すことにより、自然体でできるようにしていきます。つまり、相当数の場を踏み、鍛錬することで心に訴えかける話術を獲得しているということです。

 場数や練習と聞くとすごく大変そうに聞こえるかもしれません。でもこの特訓、実は経営者自身にとっては、有益な面があるため好業績企業のトップは実践を繰り返し続けています。

 人には、「自分の思いを伝えるたびに、その意思が強固になる」、「言葉にしたことを実現させていく」という機能が備わっています。そのため、叶えたい夢や目標を何度も口に出して、その意志を固め、現実のものにしていくという一連の流れに乗ることができます。すなわち、負荷の掛かる精神論に頼らずに、経営者自身のやる気と行動力が自然と湧き出る仕組みが完成するということです。

 有名な精神科医の言葉に「過去と他人は変えられないが、未来と自分は変えられる」というものがあります。この言葉通り、社員を変えようとするよりも社長自身が自分を鍛え、社員を成功へと導いていくことは理にかなっているのではないしょうか。

 モテ社長の会社は、事業成長を後押しするサポーターが多くいます。非モテ社長は、社員のやる気が上がらないと嘆きます。社員の「心に響く」たったそれだけのことです。あなたの会社の社員たちが、渇望している「社長の一言」は何ですか?