第79号:経営に見た目は必要ですか?
肌理の細かい肌に印象的な赤い口紅を差している白髪の女将。背筋をピンと伸ばし、小気味よい語りに惹きつけられ、日本酒の作り方、新商品の完成秘話、試飲と日本酒と甘酒の世界にどっぷりと浸ることができました。
先日、尋ねた酒蔵見学で案内をしてくださった名物女将の話です。人生の先輩として、尊敬できる素敵な方と出会うことができたこと、購買意欲を満たすことができたことに満足し、両手いっぱいの荷物を抱えながらその場を後にしました。
充実した見学会だったと同行した方々と感想を述べあっている時でした。「実は…」と申し訳なさそうに口を開いた方から知らされたのは、この酒蔵は破産が決まっているということでした。驚いたものの言われてみれば、致命的な欠陥を放置し商機を逃していること、女将の言葉の端々に感じる違和感の正体が「これか!」と腑に落ちました。
この事実を聞いてから、ますます女将に魅了されたように思います。というのも、プロフェッショナルとしての役割を最後まで果たしているその姿に心打たれたからです。破産という状況に追い込まれてもなお、自分たちが築き上げてきたブランドにプライドを持ち、毅然としている姿勢は凛として咲く花のようで美しさを覚えました。
仕事と見た目は関係ないと思っている方も多いかもしれません。しかし、心理学の法則では、第一印象を決める要因は、視覚情報(態度)や聴覚情報(話し方)が影響を与えると言われています。特に、見た目、しぐさ、表情、視線というのは、話す内容よりも重要だと言われるほどです。
試しに、飲食店などで接客を受ける際、店員の対応からその人に対して持った印象、その理由を探ってみると面白いのではないでしょうか。子どもの頃、人を見た目で判断してはいけないと教わってきましたし、その通りだと思います。一方で、他人は見た目で判断することを心しておくことが大事なのではないかと思っています。
話を戻しますが、倒産してしまう事実は覆すことはできません。これまで愛飲してたくれた顧客、従業員、関係者のことを考えれば、メソメソしていても仕方がないのは明らかです。非情だと受け取る方もいるかもしれませんが、酒蔵を代表する女将としての振る舞いをし続けることが、事業譲渡などの次の道を切り開くこととつながることも充分に理解されているはずです。
もちろん、見た目が全てだと主張しているわけではありません。しかし、これは事業運営を行う観点の1つになるのではないかと考えています。例えば、ヨレヨレ白衣を着た看護師を信用できるか、肌荒れしている美容部員から化粧品を買いたいか、背筋が曲がった整体師に施術されたいか、ボロボロのノートパソコンを使うセースルマンから最新技術を買いたいか…というように、自社が提供しているサービスに見合った見た目(姿勢)があるのではないでしょうか。
少し表面的な帰結になりそうなので修正しますが、人の立ち振る舞い、生き様のようなものはにじみ出ると思っています。ただし、それをどのように受け取るかは相手に任せです。酒蔵の女将のことも、彼女の真実を知ることはできません。受け手の勝手な印象や人物評価でしかありません。
相手が決めてしまうことではありますが、こちらが意図する方向へと導いていくことができます。顧客が何を求めているのか、あるいは、顧客にどのような印象を与えたいのか、これは経営に携わる方のみならず社員たちが一考すべきテーマなのではないでしょうか。
あなたの組織は、顧客にどのようなイメージを持たれていますか?