第12号: 社員に伝えたい「ズバ抜けた成果」を生み出す視点

 「大野さん、ちょっと笑えるような笑えない話なんですけどね。うちの社員が無駄な作業を減らすために、社内の時計をすべて外してしまったという事件がありまして…」と、打ち合わせをしている際に、お聞きした話です。

 「電池交換に時間を取られるのはもったいない」と判断した社員が、社内の時計を撤去してしまい、その苦情で社内に混乱が起きたとのことでした。

 無駄を削減する取り組みによって、組織全体として効率を下げてしまったという話はそんなに珍しいことではありません。時計を外すとまではいかないまでも、1人の社員や1部門の生産性は上がったものの、そのしわ寄せにより振り回されてしまった経験は、大なり小なりあるのではないでしょうか。

 ある会社では、社員が各々の業務や作業の目的を検討し、その質を上げることに力を入れています。事業方針に、顧客満足度の向上が掲げられており、常々、それに関する指示を受けています。そのため、一部には言われたことをそのまま受け取り、業務のすべてを「お客様満足のため」に行っていると解釈してしまう社員たちがいます。

 要するに、業務の役割や機能を理解せず、盲目的に作業をこなしているということです。業務は、何でもかんでも、1つの狙いにたどり着くわけではないことは、少し考えればわかることです。しかし、その考えるということを端折り、とりあえず作業をこなすことに全力を注ぐ社員たちがいるということです。

 若手社員なら、作業に没頭し、周りが見えなくなってしまうことは致し方がない面もあります。ところが、中堅やベテラン社員から、「自分の目線だけで物事の良し悪しを判断する」、「部分的な対処でも、充分やり遂げたと思い込む」、「経験論でしか語れない」といった言動が見受けられれば、まさに仕事の意義や目的が見定まっていないと証拠です。

 このように、無目的に仕事をこなしている状態を放置していると、あちらこちらでムダやムラが発生してしまいます。そして、それは人の感情を蝕んでしまうことや、あらぬ誤解で社員同士のいざこざを招いてしまうこともあります。結局は、生産性や効率性が阻害されることとなります。

 当然のことではありますが、中堅からベテラン社員へと職歴を積み重ねていくに従い、やるべきことの範囲は広くなり、複雑さや難易度は高まっていきます。そのため、言われたことを忠実に対処できるだけでは、自部門やチームを切り盛りすることも、組織全体との整合性を図ることも、将来を視野に入れた計画を立てることも、極めて困難です。

 ですから、社員たちには経験に照らし合わせながら、多面的に事態を捉え、やるべきことや打ち手を検証させていくことが重要となります。すなわち、上位者から指示されたことを完璧にこなしている程度で満足せず、自分の頭で考えて、目的や結果を追い求める視点を持たせるということです。

 圧倒的な成果を出す社員は、会社や組織を通じて実現したいことややってみたいことをもっています。それを試すためにも、様々な角度からどのようにすれば自分ができることをやれるかを徹底的に考えています。このように社員たちが実現したいことと、会社の将来を結びつけていくことが人材の資産価値を高めていくことです。

 言い換えれば、会社組織にとって、よいより未来の実現に向けて動くことができる人材は、資産価値が高いということです。人材の資産価値を高めることは、実りのある経営ができるということです。

 あなたは会社の業績を伸ばす、資産価値の高い人材はいますか?

 社員たちが、やり遂げたいと意気込んでいることはなんですか?