第77号:生き残りをかけた人材戦術
いわゆる大手といわれる企業の強みは、圧倒的な組織力です。組織全体を機能的に形成することにより、競争に勝ち、永続性を高めていきます。業界により多少の差はあることは事実ですが、このように仕組み化された組織は、ある程度の能力を持った人材を採用し、適切に配置すれば、概ね順当に物事が進んでいくようになっています。
もちろん、そこにはこまごまとした問題や課題はあることは理解していますが、組織全体で捉えた時には些細なことで済んできました。ところが、ここ数年、合理性が高いと評されてきたこの仕組みによる弊害が出ていると言われるようになっています。
表出の仕方はさまざまあると思いますが、ここ最近話題となる企業の不祥事を見ていると、意思決定のメカニズムに課題にあったことは疑いようがありません。さて、この話題を持ち出すと結局のところ、最終意思決定者のあり様だという一言で終わってしまいますので、もう1つの観点として考えて頂きたいのが自部門(事業)の永続性です。
永続性の観点は近年言われていることもあり、今の状況を正しく把握した上で、次の手を打とうとしている企業も出てきています。例えば、機能的な組織を構築している企業であれば、社員たちが「枠に収まる」ことをよしとしてしまい、「背伸び」をしなくなるという現象が起こります。当たり前すぎる話ですが、枠組みに則って業務を遂行することが推奨されれば、社員たちはそれを守ることが普通になります。
それは何も一般社員に限ったことではなく、役職者たちにも同じ傾向が出ているのではないかと感じています。自分の役割や担当を勝手に規定し、ここまでと決めてそれ以上のことはしないという上司たちがいるのではないかということです。実績や業績を求められることが多くなればなるほど、「今」に重きを置いた意思決定を行うことは致し方ないことなのではないでしょうか。
そうなると、必然的に保守的な選択が増えて、結果的に無難に対処できる人材を重宝してしまい、次世代を牽引する人員を育てることは後回しになってしまいます。その結果として、多くの企業が抱えている次世代の経営人材が育っていないという事実は、これまで何も疑うことなく築かれてきた暗黙的な組織運営との相関があるように感じています。
そこで、次の時代を築き上げていくための種まきの必要性が出てきます。これを、どこの誰が担うのかが議論の1つ目になると思います。これは人材育成という領域に留まらず、予測できない事業環境下でいかにビジネスを発展させていくためには、何が必要なのかを明確にした上で、誰がその責任を引き受けることができるのか焦点となります。
また、具体的にどのように人や環境を整えていくかも検討していくことが大切です。つまり、「人」を活用した種まきというのは、その「土壌」と「育て方」の両面からアプローチしていかなければなりません。座学は必要かもしれませんが、それよりも大事なことは如何に経験を積ませるかということです。
上述した観点からの取り組みは、一般社員や人事部門に任せることは難しいということはお気づきだと思います。事業の永続性という壮大なテーマには、それ相応の時間もコストもかかることが想定されます。しかし、このテーマに早く手をつけることが、自社・自部門が生き残る手段なのではないでしょうか。