第92号:屁理屈なし!今すぐにでも見直したい人事の話
「人は城、人は石垣、人は堀、情は味方、仇は敵なり」とは、戦国時代の名武将である武田信玄の言葉です。人の和こそ最大の武器であり、最大の盾であることを信じて国政を行い、成果を挙げられました。偉人たちの言葉は、現代を生きる経営者に真理を問う役割を果たすのではないでしょうか。
過労死等防止対策推進法に基づき、厚生労働省は毎年11月に「過労死等防止啓発月間」と定めてシンポジウムなどの取り組みを行っています。「カロウシ」という言葉は、国際的にも有名となりました。過労死や過労自殺が多発したことが、大きな社会問題となったことは言うまでもありません。
法定白書等の調査結果を見ていると、国が推進してきた施策は一定の効果が出ているように感じます。週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、減少傾向にあります。また、年次有給休暇の取得率、勤務時間のインターバル制などの取得率・導入率は向上しています。
一見、働く現場は改善しているかのように見えます。しかし、労災認定者の数・死亡件数ともに増えているおり、特に精神疾患は10年前と比較すると倍近い数になっています。その要因は、人手不足、在宅ワークなどの働き方の多様化、労働者の価値観の変化、管理職の能力不足など複雑かつ多岐に渡っており、簡単には解決できるものではありません。
この手の話題に多くの経営者は、うんざりしているのではないかと感じています。それを理解した上で、このテーマをお伝えしている意図は、「第2号:人材の資産価値を上げられない社長の人材観」でも書いている通り、企業が戦っていくためのルールが変わったからです。
国際社会からは、企業の人権擁護が期待されるようになりました。これは、グローバル化の進展によって引き起こされる、児童労働や強制労働などの人権侵害を防止することで、永続的な経済成長を遂げることを目的としています。
うちの会社はそんな大それた仕事をしていないから関係ないと思われるかもしれませんが、あらゆる業界・分野において人権に対する意識が求められる時代になっていることは認識なさった方がよいと思います。
旧ジャニーズ事務所の性加害問題が社会的に非常に大きな話題を呼びました。これまでは、噂や告発があっても報道されることもなく、触れてはいけない話のような扱いとなっていました。ところが、海外からの注目が高まるにつれ、旧ジャニーズ事務所と取引を行っていた企業が対応に迫られることになりました。
これは、自社のみならず関係先にも、人権を守ったビジネス運営を求めているということです。私たちの社会は、残念ながら人権に対する意識が醸成されているとは言い難い状態です。ですから、人としての権利とは何か、個人を尊重する意味を知ることは、今後の事業を考える上で極めて重要です。
世界のビジネスガイドラインはすでに変更されてしまったわけですから、いかにこの時代を生き抜いていくかを考えることが必要不可欠です。先に挙げた過労死・過労自殺、あるいは、セクハラやパワハラ問題は、あくまで現象であり、そういった問題が発生してしまう背景には、必ず、企業独自の考え方や価値観、商習慣が存在しています。このような常識は、当たり前のように受け継がれていきます。
既に明らかとなっていることですが、私たちの社会では、会社の常識や当たり前に疑いを持つことや異議を唱えることは非常に難しいことです。ですから、自社の習わしを再考するのは、経営者なのではないかと考えています。自社らしさは、時代や世間と照らし合わせた時に事業の発展や推進の活力となっているのか、将来の事業価値を損ねるものになっていないか、と一考する余地があるのではないでしょうか。
あなたは会社の発展を考える上で、大切にしている先人の言葉はありますか?