第100号:年始に考えるべき人材戦略
新年の幕開けは、経営者が次のステージに向けて人材の資産価値を高める戦略を練る絶好のタイミングです。上場企業の人的資本経営における情報開示の義務化が2023年から始まっていますが、組織力の向上に人材強化の実践が企業の未来を大きく左右することは周知の通りです。
人材の資産価値を高める戦略を考える際に、必ずして頂きたいことがあります。経営者として、自社の人材がこれから先の変化に対応できるかを見極めることが必要です。例えば、業務上使用するソフトウエアの更新や乗換などが、これまで以上に進んでいます。しかし、それらを上手く活用することができず、現状を維持しようとする社員たちが一定数います。
時代が大きく変化している最中に、その波に乗れない人たちがいることは仕方のないことです。とはいえ、それを許容してしまうことは、企業間競争から取り残される危険性があります。まだまだ技術の進化は続くでしょうから、その変化に柔軟かつ迅速に対応できる基盤を構築することが重要となります。
すこし大げさに聞こえてしまうかもしれませんが、社員が知識・技術を継続的に学び、成長している実感できる場を提供してみてはいかがでしょうか。社内でそうした場を整備することもできるとは思いますが、社員に読書を推奨するなど一切費用を掛けずに実践できることもあるはずです。
業界や業種にもよるかもしれませんが、20代後半以降、成長意慾や危機意識を持ち資格取得や勉強会参加などのように、自己研鑽している社員は一定数存在しています。企業内にある知恵や知識だけでは、業務を遂行することが難しくなっていることを理解している社員がいることを把握しておくことは有益です。
さて、人材の資産価値を高めるという観点は、一個人の能力を高めることに留まりません。成長期にある経営者は、スター選手の採用ばかりにこだわってしまうことがあります。確かに、技術の高い社員、自分で考えることができる社員などに期待を寄せてしまう気持ちは分かります。各々が活動でき、さらに、チームとして連携できる体制を築き、より強固な組織体制にすることが資産価値だと考えています。
勤務形態・働き方・人材の多様化、複雑化するビジネス現場など、一人の力だけでは解決できない課題が増えてきています。こうした現状は、これまで以上に社員間、チーム間の信頼と効果的なコミュニケーションが求められるようになります。
コミュニケーション問題は、悩んでいる経営者が大勢おり、その必要性を感じていると思います。しかし、ちょっとした思い違いで、コミュニケーションを取ることが目的だと思い込んでいることがあります。ビジネスの場でのそれは、目的のある意思疎通です。
業務目的を達成するために、日ごろからの対話が推奨されています。ところが、日ごろの対話を意識するあまり、気疲れしているという現状もあります。これが俗に言う目的と手段の転倒だと思いますが、これを解消するには、業務の目的、チームの目標やゴールの明確化などのように、「何のためをどのような情報を伝達する」のかが明確化できるような仕掛けづくりは一考に値するのではないでしょうか。
ある企業の某部門では、「隣のチームが何をしているのか知らない」「同じチームの先輩が、何をしているのか分からない」と真顔で話していた時に、冗談かと思ったことがあります。同僚同士での会話は、知らない人とは話すのは嫌い、怖いといった理由から自分の仕事だけできればそれでいいと考えている社員たちがいました。
なぜ、こうした現象が起きたのかといえば、突き詰めてしまうと「部長のビジョンがない」ことでした。こうした経営層の能力を知ることも、経営者が押さえるべきことです。日々の業務が滞りなく進んでいるとなかなか気がつきませんが、年も変わり新たな始まりこそ、組織の継続的な競争力を支える大きな要素について考察するよい機会となります。
あなたは、これから起きる変化に向けた準備をしていますか?