第1号:社長が考えるべき、人材の価値を高めていくための「仕事の定義」
「オーナーとして会社を立ち上げようと思ったきっかけは、サラリーマン社会に絶望したからです。上司や先輩は皆上ばかりみて仕事し、誰も顧客を見てないことに怖さを感じました。ところがですよ、会社を立ち上げて、事業が安定し始めた頃からふと感じてしまいます。結局、今もサラリーマンと変わらないじゃないかと…」主要取引先との関わり方に疑問を感じているD社の経営者のお話です。
大企業からの仕事を引き受けているため、今のところ業績は安定している。しかし、業界の先行きは厳しく、減収の兆しが見えている。「これから先の事業展開を描かなければと思う反面、あの会社がついているから大丈夫だと思いたい」という気持ちの間でものすごく揺れ動くということでした。
大企業との取引は魅力的です。しかし、経営者の交代、担当者の交代でこれまで築き上げたものが、全く役に立たなくなることがあります。もちろんD社も置かれている状況が、一変していく場面に何度も遭遇しています。そのたびに、「先を考えなければ!」と思ってきたそうです。
「何とかしなければ!」と焦る気持ちがあることは事実ですが、その一方でこれまでもなんとかしてきたし、なんとかなるものだという自負もある。緊急事態があれば社員たちと「ああでもない」、「こうでもない」と言い合いながら乗り越えてきたし、これからも同じようにやっていけるだろうと…。
D社のように重要なテーマであるにも関わらず先延ばしされていることは、決着をみることはないと思っていたほうがよいでしょう。そんなことはないという反論を受けるかもしれませんが、忙しいという一言を免罪符にし、本来すべきことから目を背けてしまうのはその人の特性です。
このように先延ばし傾向のある経営者がやりがちなことの1つに、幹部社員に今後の事業計画や、将来のビジネスプランを考えさせる場を設けるということがあります。言い方が悪いかもしれませんが、社長が決めきれない、考えきれないから幹部たちの意見を聞いてみるか…程度の思い付きで、教育機会の提供という名目の下で幹部社員によるビジネスプラン構築がスタートします。
集められた幹部社員たちは、自社の事業ついて真剣に検討を重ねていきます。自社の現状分析、問題、あるべき姿、とるべき対応や手段を打ち出いきます。出した案はまとまっているし、社員同士の意思疎通も密で、連携して事態を打開させていく気概もあります。ところが最後の最後にネックとなるのは、「社長のOKがでない」と幹部社員たちが口を揃えて訴える。
こうした場で浮かび上がってくるのは、社長の意思決定問題。つまり、社長が決められない問題というのはよく聞く話です。
さて、社長の決められない問題は、自組織の人材の資産価値に大きな影響を与えてしまいます。
「会社をよくしたい」という社員たちに、将来ビジョンや問題の解決策を出しても“何も変わらない”という「現実」を突きつけたということです。これは組織運営においては非常に罪深いことで、選ばれた先鋭たちが必死にプランを策定し、実践したいと訴えた。しかし、それは無駄に終わった。つまり、「何もしない方がよかった」、「まじめになった自分がバカだった」、「本気にならなければよかった」と感じ、「やるだけ損する」ということを学習させたということです。
幹部社員たちの背中を見ている社員たちにも、こうした感情は伝染します。「会社をよくしたいと思うだけ無駄」、「期待するだけ損をする」、と意欲を失った職場には、無気力感が漂っていきます。また、こうした会社からは、優秀な人材から退職していきます。
将来ビジョンが不明確な企業、社員たちの無力感や意欲の低さ、鶏が先か卵が先かはわかりませんが、 物事を冷静に考える力がある社員であれば、この社長について行っていいのか、この会社に未来はあるのか、と分析します。もっと自分の可能性を高められる場に移りたいと考えるのは、きわめて真っ当な判断なのではないでしょうか。
笛吹けど踊らずという言葉がありますが、その原因は社長自身のこれまでの言動にある可能性があります。自らの言動を振り返って「反省してください」なんてことは申し上げません(笑)。
人材の資産価値を高めるために、今一度、経営者に考えてほしいテーマがあります。
“経営者の仕事”はなんですか?
「経営だ」という解は求めておりません(笑)。当たり前すぎると怒られるかもしれませんが、経営者が考えていることや言動で人や組織は作られていきます。どうぞ年初めに、じっくりと考えてみてください。