第42号:鈍すぎる経営者の落とし穴

 「大野さん、実は転職活動しているんですが、うそのような会社に出会いました。」と、お付き合いのある企業の人事マネジャーとの話です。聞けば、求人企業に面接に行くと、面接官として出てきたのは担当者らしき方が1人で出てきたそうです。その段階で、「この会社ない」とそうそうに面接を切り上げたそうです。

 人事マネジャーとして応募した企業で、部下になると思われる方が面接官をしていた。え?!そんなことあるのと思う方も多いかもしれませんが、似たような話は耳に入ってきます。経営者が「自分の上司になる人だから、ちゃんと面接してよ」と、直属上司の採用業務を指示することがあります。センスがないとしか言いようがありませんが、社長自身は悪気なく行っています。

 指示を出せば、社員たちは言われた通りにやるだろうと期待してのことでしょう。ところが、いつまで経っても採用者が決まらず、「いい人材が応募してこない」と思い込んでいることがあります。残念ながら、見当違いの業務割り当てをしたことに、全く気がついていないことがあります。

 人の気持ちや状況の変化を上手く捉えることができない人は、どこにでもいます。矢面に立つ経営者であれば、無神経なくらいの人の方が事業を引き上げていく、強引さのようなものを持ち合わせていることもあります。ですから、人に対するセンサーの有無は、吉とでることもあれば、凶と出ることもあるということです。

 経営が軌道に乗っており、イケイケどんどんで伸びている時はよいです。何か歯車が嚙み合わなくなった時に、会社として成長することが難しくなります。特に、人権、ハラスメント、コンプライアンスと社員の扱いに関する社会的な要請が強まっている今のような時代において、経営者が人とのやり取りに無自覚な言動をとり続けることは、多大な損失を生み出してしまう可能性があります。

 さて、もう少し身近な話で考えていきます。経営者の方々から、「社員に幸せになってほしい」、「喜んでほしい」と聞くことがあります。それは具体的に何かと尋ねると、概ね「給料を上げること」と返答されます。社員たちは、給与が上がることだけを要求しているわけではないことを皆さんはご存じだと思います。もちろん、給与を上げることは、とても重要なことです。

 その一方で、社員の悩みや喜び、仕事を通じてやり遂げたいこと、会社の成長に貢献したいとなどといった思いを見過ごしてしまいがちです。このような経営者とお話をさせて頂くと、自分の意見や考えが違うとすぐに話を遮る、もしくは、イライラし始めて貧乏ゆすりやスマートフォンをいじり始めるなどといった行動が散見されます。

 個人差があることは言うまでもありませんが、皆が同じ理由で同じ言動を表出させているということではないです。ただ、はっきりと分かるのは、他者の意向や心情を理解しよう、なんとか対応しようとしているようには見えないということです。

 これらの言動を先に上げた時代の変化に重ねてみると、鈍感さは「時代や状況の変わり目を見逃す」、「自分視点になり視野が広がらない」、「リスクに対する意識が低くなる」、「情報連携や共有が上手くいかない」などの負の特徴が如実に現れてしまいます。

 鈍感な経営者が招きやすい経営リスク、陥りがちな点について明記しました。多くの経営者は、「自分は優しい」と思っています。自己認識と他者認識は異なりますので、ご自分が普段取っている言動を今一度振り返ることをお勧めいたします。

 想像してみてください。最近話題になった「あの会社」、「あの事務所」の前経営者が、自分の言動を振り返っていたならば…今頃どうなっていたのかを。