第68号:将来の収益を作る近道

 「僕は、役職についてから初めて分かったことが多いよ。」と語ってくださったのは、人材業界を牽引する企業の会長です。事業と人材についてお聞きしたいことがあり、お時間を頂きました。

 皆さんは、いつ頃から経営視点で物事を捉えるようになったのか、覚えていらっしゃいますか。経営者の視点と経営視点とは、似ているようで全く異なるものです。一般社員、管理職、経営層それぞれの立場があるでしょうが、真に経営者と同じ立ち位置から物事を捉えることは難しいのではないかと考えています。

 私自身が若かりし頃、感じていたことや経営者として1人立ちするようになり痛感していることについてお話させて頂きながら、その疑問や意見に応えるように、社員に求める経営視点や経営者としての人材観についてのご意見を伺いました。

 その1つが冒頭に書いたことです。「現場で管理職をしている頃、経営視点なんて持てなかった。ただ、役職についたから見える世界があることも、挑戦できることが多いことも理解し始めた気がする。」若いうちは、経営者の視点に立てないのは、当然のことだと理解しました。

 また、今回のお話の中で最も印象的だったのは、「人材について考えるのはトップの仕事だ」という一言です。事業の在り方、永続性を真剣に考えることができるのはトップしかいない、そのための布陣は経営者が考えるべきだと明言されました。

 「人材業界の経営者だからだ」と、反論する方もいらっしゃると思います。そうした側面は、残念ながら否定できません。翻って、業界が異なれども、最後の最後は「人」であることを痛いほど味わっている方も多いはずです。役割意識なのか、機能性の問題なのかは分かりませんが、人に関することは人事部門がやるべきだと決めつけていることはないでしょうか。

 現状の問題はさておき、事業戦略と人材の関係性を考える時には、各部門のトップが極めて重要な役割を果たすことになります。人材不足、事業継承、技術伝承、ダイバーシティなど広範囲で複雑化している課題を人事に委ねたところで、すぐに解決できるわけがないことを皆が理解しているはずです。

 結局、部門のトップに経営視点がなければ、言われたこと、これまでやってきたことを繰り返すしかできません。目先の対処に長けている、裏切らない人物を部門のトップに据える企業もありますが、そうした方々に経営者の視点に立てる素地があるのかは検証する必要があると考えています。

 経営者の方々とお話をさせて頂いて感じることの1つに、今と数年先の儲け話に夢中になり過ぎていないかということです。この数年で、日本のビジネスモデルとそれを支えてきた根幹が大きく揺らぎ始めていることは周知の通りです。ここから先の勝負は、将来の収益につながる事業を維持、構築し直していくことなのではないでしょうか。

 このように考えると、人材業界のトップが「人材」ついて考えるのはトップの仕事だと宣言したことは、非常に意義深いことのように思います。

 あなたの会社側近は、経営者の視点に立てる人物か一緒に点検してみませんか?