第65号:会社を守る!経営者が持つべき聞く耳

 ある企業の部門責任者の方のお話をお伺いする機会がありました。研究開発部門から新規事業開発へと異動となり、成果を出すことが難しくなった時の話を聞かせて頂きました。「研究開発部門にいた頃は、自分がやるべきことが明確で、それを遂行していれば結果はそれなりに出せていました。ところが、全く異なる部門への異動は憤りしかなかったですね。」

 似たような話をあちらこちらで耳にしますが、これまでの経験値が通用しなくなる時というのは自身を大きく変化させる機会でもあります。頭では成長するチャンスが巡ってきたと理解しているものの、焦り、不安、恐怖、に苛まれて平常心を保つことで精一杯になってしまうのは不思議なことではありません。

 さらに、職位が高ければ高いほど、厄介となるのがプライドなのではないでしょうか。これまで培ってきた知識や経験則から導き出した定見が通用しない。そのような場面に幾度となく遭遇しても、「自分ならできる」とアクセルをガンガンに踏み続けて乗り切ろうとしたという話に、共感を覚える方は多いはずです。

 人をまとめて動かしていくというのは、とてつもないエネルギーを必要とします。それに加えて、想定した通りの結果や成果が得られなければ、気持ちが沈んでいくのは当然です。以前のコラム、「第17号:経営者がやる気をなくしたらダメですか?」「第22号:モチベーションを下げた社長への処方箋」では、ストレスを和らげるための対処法とご自身のやる気の源泉を探す視点について紹介しました。

 これらとは異なる観点からのアプローチについて考えてみたいと思います。まず、ご自身の状態を正しく把握することです。フルスロットルの状態が続けば、常に考え事をしている、警戒心が強くなる、リラックスできない、といったサインが出てきます。

 このような状況が続けば、他人に対して攻撃的になる、すべてを否定するなど、自分の心を守るための言動を起こしやすくなります。すなわち、やる気がでないどころの話ではなくなってしまいます。ですから、ご自身の心や身体からのサインと正しく向き合うことは、会社や組織を守る観点からも重要なことです。

 次に、部下やメンバーたちに歩み寄り、成果・結果を出すためのコミュニケーションを図ることです。世の中の大半の人が、時代の変化点にいることは認識しています。けれど、何が最善策なのか理解している人はごくわずかです。自分で抱え込まず、人を活用する術を手にすることで組織としての最適解を素早く打ちしていく方が得策なのではないかと考えています。

 冒頭でご紹介させて頂いた方も、部下たちの話を聞くことに専念したとお話されていました。思い寄らない意見やアイデアが出てきて、やり始めたら部下たちが前のめりとなり、会社から賞をもらえるような結果を出せたと語っていました。

 経営者を含め上司という立場の方々は、話を聞くことが苦手です。多くは、コミュニケーションをとっているつもりが、一方的に話をしているだけになっています。また、自分とは異なる思考の仕方や考え方に馴染まないと、どうしても否定したくなってしまいます。その自我を脇に置き、部下が言わんとすることに誠意をもって耳を傾けてみてください。「お前の言いたいことは分かった」で済ませず、何を伝えてもらったかを返すことで部下の戦闘力は必ず高まります。

 あなたは、聞く力ありますか?