第27号:経営者のための後悔しない人事づくり
「大野さん、採用案件でお世話になった事業所の事なんですが…」と採用コンサルティングを実施したある大手企業の事業所に関することで話をしたいとのことでした。人事に何の相談もなく、新卒採用を中止すると決められたことが判明し、がっかりと肩を落としながらご報告いただきました。
この会社では、現場の労務担当者が中心になり、採用や労務の対応を行っています。ところが、何年もの間、人が上手く採用できない、退職者が続出する、面接官の基準が揃わないなど多くの問題を抱えていました。困り果てた事業所のトップが、本社人事に相談して弊社で採用に関する問題解決の支援をさせて頂きました。
人事部のあり方やその運営方法はどこの会社でも同じだと思う方もいるかもしれませんが、実は、会社によって違いがあります。この会社のように、事業所などの現場主体で進めていく会社もあれば、全てを本社や本部が一括で管理している会社もあります。
じゃぁ、どれを選べばいいの?とすぐに聞きたくなる方もいらっしゃると思いますが、そんなに結論を急がずにもう一度、原点に立ち返りましょう。このコラムでも何度も取り上げていますが、経営として実現すべきことを、達成していくためには、どのように人を活かし、育て、報いていくかという人事の施策を系統立てて構築し、全体的な整合を取れなければ、経営効率は上がりません。
当然ですが、経営ないし自社のビジネスの特徴、何を追求していく集団なのか、という組織としての前提条件が明確になっていることが大切です。さらに、描いたビジョンに近づいていくには、これから先々起こりうるであろう事態や事業環境の推移を予測していくことも必要不可欠となります。
ですから、よくありがちな、若手とのコミュニケーション施策として、1on1をやりましょう。とか、タレントマネジメントシステムを入れましょうと、流行っているものをその都度導入してしまう会社は、人に関する対処はその場その場でなんとかなると考えているということです。敢えて言葉にするなら、場当たり的で、無駄が多い会社です。
あるエンターテイメント会社の社長は、事業と人との関係を考える中で、「うちの会社の事業は、知恵やアイデアを通じて感動を与える仕事だ。社員に求めることは、創造性だ」と断言しています。この会社では、このような経営者の考え方の下、のちのち社員たちのモラルが下がることを懸念し、一般職や総合職といった社員間の区分を設定しないと決めました。
一方で、買収によって事業を大きく成長させてきた製造会社は、経営効率を高めていくために、必要な時に必要な人材を各地に送りこむという体制を整えています。そのため、送り込む社員の管理能力をしっかりと把握できるようにしています。つまり、現場の裁量で好き勝手にできないように、人事本部が体制を整えているということです。
これらからも分かるように、どちらが良いのかという問いに対する答えを出すとするならば、「御社が何を実現したいかによって変わる」ということです。そのための道筋を描くことを戦略というならば、その戦略を実行するには、「戦略的に人」を動かしていかしていくことが大事だという話です。
戦略人事、人事戦略という言葉は、何十年も前から日本には輸入されています。それでも、普及しないのはなぜだと思いますか?