第26号:人への感度が低い経営者がやりがちなミス

 「うちみたいに安い給与で、不人気な業界は、長いことずっと人手不足ですよ。」とある経営者が、ため息交じりに話してくださいました。短期アルバイトや派遣を使いながら、なんとか人材をやりくりしているとのことでした。

 求職者が求める柔軟な働き方と、必要な時に必要な時間だけ働いてもらう働かせ方、両者のニーズが合致したサービスが登場しています。人件費や採用コストの削減、とりあえずの頭数を揃えることができると、新たな求人手法を導入する企業も増えているようですが、その一方で現場からの評判があまり良くないとの声を耳にします。

 「現場のために、このシステムを活用しているのに…なぜ?」と疑問を持った経営者は、人に対する感度があまり高くないことを認識した方がよいかもしれません。少し厳しい言い方になるかもしれませんが、良かれと思ってやっていることが、社員たちの反感を買っていることがある可能性があります。

 「ぷらっ」ときて、次、来るか分からない人に指示を出す・教えるという人の立場となってみると、単純に「面倒くさい」仕事になっているということです。やることが増えるのに、給料は変わらない。自分がやった仕事は、会社の未来にもならない。単なる消耗戦になることが分かっているのに、対応しなければならない虚しさを覚えます。

 そのような気持ちを抱けば、単発で来た人材には、好意的な関係を築く気にもならないでしょうし、職場の雰囲気も上司との関わり方もないがしろにしていくことになることは、ある程度想定できることです。ところが、経営者は「仕事なのだから、自分の気持ちとか感情に関係なく、やり切ることが当然だ」と考えます。確かに経営者のおっしゃる通りではありますが…、仕事だと割り切ることができる人はそんなには多くいないのが現実です。

 ここでは、採用に関する話題を取り上げましたが、人材のあれこれに関する感知能力は経営者にとっては重要です。察知できることは人により異なりますが、参考までに、2つの視点からセンサーの度合いをみてみるのはいかがでしょうか。まず、人材に関する施策を実施する時に、そのメリットと社員に与えるインパクトを検討しているか。そして、自社の社員たちは、そうした施策をどのように受け止めるかを想定できるか。

 様々なタイプの経営者がいるとは思いますが、「自分の意思で物事を進めるタイプ」、「理論理屈を優先するタイプ」の中には、他者の感情に疎い方が少なくないのは周知の通りです。自分の思いや考えを信じて行動するし、相手の立場や気持ちを気にせず思い通りに人を動かすことができる方々です。

 それは、経営者として必要な能力でありますが、人や組織を動かしていく際に必ずしも有用に機能しないこともあります。随分前から人材難に対する危機感を抱いていたのは、人事部門の方々でした。その当時、現場から上がっていたのは、「派遣会社に言えば何とでもなる」、「外国人が来るから問題がない」などといった声が主でした。

 人材不足が深刻化する前から、その情報は経営者の下には届いていたはずです。それでも、「何とかなる」とか「うちの会社に限って」と人材に関する予測を上手く立てることができなかった経営者も相応にいたと思われます。

 この数年、働く人を取り巻く環境は激変しています。働くことにまつわる情報がつまびらかになる世の中で、「うちの会社」だけが愛社精神を持てる特別な存在ではなくなっています。誰も予測していなかった「大量退職時代」が到来し、人材に関する意識が低い企業では、この数年の間に数十人の社員がいっぺんに退職していく事態に遭遇しています。

 この人材不足をどのように乗り切っていくのは、経営における人材戦略そのものです。経営者が何にフォーカスを当てがちなのかを知っていなければ、人材に関する取り組みは不発に終わります。人材に関する課題は、社員を理解する目線が必要不可欠です。

 うちの会社の社員たちは、会社を裏切らないと思い込んでいませんか?