第29号:経営者がいまさら聞けない⁉幹部社員を育てる視点
昇進した方にお会いすると、聞きたくなってしまうことがあります。それは、「昇進して見える景色は変わりましたか?」です。聞かれた方は、一瞬「え?」という顔をされますが、その後、どのような答えが返ってくるか想像できますか?
職位によって多少変わりますが、総じて一番多い反応は、下を向いたまま無回答です。次に、「そんなこと分からないよ(笑)」「何も変わらないよ」です。コミュニケーションの一環のような意味で質問をしているので、単純に地位の向上による心情の変化などについて話すことができればと思っていますが、なかなか対話にはなりません。
つい先日、某外資系企業で役員になられた方に、同じにように質問を投げかけました。すると、「すごく変わるよ!とにかく入ってくる情報量が、これまでは比べものにならない。だから、意思決定のスピードがものすごく上がる!」と力説してくださいました。
組織は意思決定機構だから、職位が上がれば入ってくる情報は変わるのは当たり前だろ!と言いたい方もいると思います。事実、多くの人は、理屈上のことは理解しています。ところが、職位が上がり、見える風景が変わっていることに気がついていない人は相当数います。
その理由の1つには、情報を活用して物事を前に進めていく機会が圧倒的に少ないからではないでしょうか。「経営者の命令に、御意の一言で物事を進めていく」、「みんなで話し合って決める」、「波風を立てないように無難にまとめる」などのように、上司や周りと歩調を合わせることに意識が向いていれば、自らの意思や考えを前面に押し出す場は必然と減ります。
日本企業ではこのように、経営者の意向に頼ることや意思決定者があいまいになることを好む傾向があります。それとは逆に、外資系企業では意思決定者は明確であり、スピードと質が求められます。事業運営に対する考え方がこれだけ違えば、情報に対する感度、職位に関する捉え方も異なることは当然なのかもしれません。
では、日本企業の経営において、物事を決める力が必要なのかを考えてみましょう。ある会社の役員の方々に、経営に必要な能力に関するインタビュー調査を実施したことがあります。インタビューさせて頂いた皆さんから共通して上がったのは、「答えのない状況の中で、事態を打開していく」でした。その理由は、戦略策定、方針決定、組織作りなど、さまざまです。
印象に残った話に、国際的な取り込めによりビジネスルールが変更された時、「社長から俺も分からないから、お前が考えろ」と言われた時の話をしてくださった方がおりました。経営者は何でもわかったように装っているけれど、全てを見通せるわけでもないことを実感したそうです。
創業経営者など、事業に精通した経営者はまるでなんでも知っている顔をしてしまいがちです。しかし、普通に考えれば、これだけ世の中が複雑化している中で、全知全能とはいかないでしょう。そう考えれば明らかなことは、不透明な状況下に置かれても、自らの力で道を切り開ける幹部社員たちは、経営上極めて重要だということです。そうした社員たちを外部から調達するという考え方もありますが、やはり現実的には内部で育ていくということが必要不可欠です。
あなたの会社では、困難な状況を乗り越えることができる人材をどのように育てますか?