第31号:「なんでうちの会社は問題ばかり起きるんだ!」と憤る社長の死角

 「大野さん、問題社員がいるんですけど、その社員への対応で役員と意見が合わなくて困っています。」と打ち合わせ中に、人事マネジャーからご相談がありました。聞けば、パワハラとセクハラを常習的に犯し、社員からの苦情が絶えない上に、何度注意をしても一向に改善が見られない管理職がいるとの事でした。

 その管理職の処遇も含めた対処について、上司である人事部門の役員に相談したものの、のらりくらりとかわされてしまったということでした。この手の不満をよく耳にしますが、こうした課題放置型の役員たちがいる会社で起きていることには特徴的なことがあります。

 まず、職場の人間関係に健全さが見えにくいという点です。先の例のように、パワハラやセクハラを咎められない会社は、自分の感情や欲求を自制しなくてよいと明言しているようなものです。もっとも分かりやすいのは、社長や役員などの経営層が、威圧的で暴言が多い組織です。

 軍隊のように縦の関係性がはっきりとしているため、社員同士の連帯感は強く見えます。ところが、それは自分を守るための連携なので、「誰が、どこで、何をした」と社内の情報を共有し合い、「感想と愚痴」を吐き出して合っています。言い方は悪いかもしれませんが、群れているだけです。

 ただ、時にその群れは、自分の身や立場が危ないとなれば、徹底した攻撃も辞さない集団に変貌していきます。これは軍隊的な組織に限った話ではありませんが、自分の弱さに負けてしまうが故に、他者を攻めたり陥れたりしてしまう人たちが出てくるということです。

 裏を返せば、いつ自分が標的にされるか分からない不安定さ、周囲から逸脱できない緊張感を生んでいるということです。このように社員たちが、腰を据えて仕事に取り掛かることができず、目先のことだけで満足し、仕事の本筋へと入り込めないというもう一つの特徴を生んでいます。

 課題放置型の役員たちの中には、課題そのもの気がつけない人がいるのも事実です。しかし、それ以上に厄介なのは、事態は認識しているけれど、部下たちに自発的な解決をさせたい、話し合いをすることが大事だ、となにかと理由をつけて何もしない役員たちです。

 「役員が社長の御用聞きになってしまい、自部門の切り盛りにまで手が回っていない」、「安定した地位を手に入れたから、余計なことには関わりたくない」という話はよく聞きます。役員の置かれている状況はさまざまですが、問題には手をつけなかったという結果は同じです。

 健全な組織であれば、役員を補佐する部長や社員たちが動いてなんとかしてしまいます。ところが、課題放置型の経営層たちがいる会社では、「なんとかするだけ無駄」、「問題を指摘することが損」とよりよい仕事をしようとする気持ちが奪われている社員が多数となり、表面的な対処に流れてしまいます。

 このような負のスパイラルから脱しようとしている会社は、モチベーションを上げるための研修、社員が一致団結するためのイベントなどを企画しがちです。組織の中に根付いてしまった悪い感情の連鎖を断ち切るろうという状況にも関わらず、なんとも的外れな措置を講じようとします。

 経営層の言動は、組織全体に影響を及ぼします。機能不全となっている役員問題は、結局、経営者が扱うべき重要な課題だということです。多くの経営者は、この人は大丈夫だと信じて役員を選抜していると思います。しかし、役員に登用された当時と同じ気構えで仕事に向き合っているでしょうか?経営層としてのマインド醸成や向上心を持ち続けているでしょうか?

 あなたの会社は、課題放置型の役員を「放置」していませんか?