第30号:次の社長になることを約束された人が蓄えるべき資産

 「あの会社、本当に酷い会社ですねよ?」と、人事の方との打ち合わせ中の雑談で出てきた話です。あの会社とは、連日報道されている中古車販売会社のことですが、社長とその息子である副社長の辞任で事態は収まるとかと思いきや次から次へとさまざまな疑惑が出てきています。

 創業社長が一代で事業をここまで成長させていく過程で、上手く人や組織を動かしていくのに苦労したのではないかと思います。結果的に、この会社では経営者の言うことには絶対服従、そして、成果を出せば高額な報酬が支払われるという、いわゆる「アメとムチ」によって人を動かしていく方法に行き着いたのでしょう。

 「アメとムチ」を使うことは、悪いことだとは思いませんが、その使い方があまりにも極端で、利益のためであれば何をしてよいという思考に陥っていたことは、残念で仕方がないです。前社長は、現場が勝手にやったことと他人事のように話していましたが、普通に考えればそんな理屈は通用するわけがありません。

 これまで経営の中で大事にしてきた考え方を基軸にして、現場は動いていきます。現場の管理者たちが、進んで行ったとは思いたくありませんが、法律に反する行為に手を染めた。そして、部下たちもその行為に加担させた。社員たちは、致し方なく犯罪行為に加わるようなった。

 それこそ、最初のうちは躊躇したでしょうが、毎日のように繰り返される行為、そして、数字が上がるごとに増える給与、上がる職位を得る経験をしてしまえば、感覚が麻痺し会社の常識にどっぷりと浸かり、世間値から乖離していることに気がつけなくなっていた人たちも相応にいたのではないでしょうか。

 これまで行われてきた悪しき慣行に拍車がかかったのが、前社長の息子である副社長が実権を行使するようになってからと言われています。創業者である父は、なりふり構わずに現場を動かして、業界トップへと成り上がった。自分と同じような苦労はさせまいと、教育にたっぷりと投資し2世には「学」を身に着けさせた。

 前副社長は、手に入れた知識を基に、経営をより飛躍させようとしたはずです。それは、前社長に仕えてきた幹部社員たちに、自身の立場を堅持する上で要不可欠なことであり、早々に実績を出さなければならないという焦りがあったことは容易に想像できます。

 副社長である自分がないがしろにされる不安、思った通りに社員が動かない苛立ちを、自分自身で解消することができずに、周りに当たり散らして姿は、子供そのものです。だだっ子のように振舞えば、周りの大人がなんとかしてくれることが多かったのでしょう。業界トップ企業を引き継ぐ2世ともあろう人が、なんとも情けない話です。

 経営者に限ったことではありませんが、経営をゲーム感覚で楽しんでいる人がいます。ビジネスゲームといわれるくらいなので、ルール則り、勝を取りに行く喜びを得ることは否定しません。がしかし、経営には絶対的な攻略法があると信じて疑わず、実務をないがしろにする人が一定数存在しています。

 学校で習ったこと、専門家が教えてくれたこと、実績がでていることを駆使すれば全てが上手くいくと思い込んでいます。だからこそ、自分が出した企画、指示に間違いはないと信じていますし、それが理解できないのは、その人に問題があるからだと安易な結論を出していきます。

 ひと言で片づけるならば、「未熟者」です。頭でっかちで、実務で揉まれていないだけなんですが、このような人に限って、幸か不幸か成熟した大人として扱われる場がありません。多くの企業は、家族経営や同族経営と言われています。今、あなたが置かれているその立場に甘んじていると、この親子を笑えない日がやってきてしまうかもしれないですよ。