第41号:変革の波を捕まえる経営者の「あれ」

「大野さん、うちの会社のこと、どんな会社だと思っていますか?」と、お付き合いをさせて頂いている企業の方から、よく聞かれる質問です。できるだけ「今」感じていることを率直にお声するように努めていますが、その一方で、「期待されている解」があるような雰囲気を感じ取ってしまうことが多々あります。

 質問する方には、「うちの会社は、こういう会社だ」という像があります。当然、社内での多くの社員たちが似たよな「自社像」を描いています。そのため、そのイメージから離れることをお伝えすると、とても嫌な顔されることもあれば、驚かれることもあります。

 ある会社の若手社員向けの研修時に、同じ質問を受けました。敢えて、普段は言われることがないだろうと思われる点についてお伝えしたことがあります。会社のイメージの裏返しを強めに伝えたところ、彼らは、強烈な抵抗を見せました。「うちの会社はそんな会社ではない!」、「そんなこと取引先から言われたことがない!」、「客観性がない!」と場は大荒れしました。

 研修担当者がこの話を聞いたら、弊社と関わりたくないと思うかもしれません。が、この程度の混乱は大した問題ではありません。経営を考える上で重要な点は、彼らの反応そのものです。いわゆる耳当たりのよい話に支配され、おべっかを真に受けていることです。そして、自分たちの良さを理解できないやつは馬鹿だと切り捨てしまえとしていることです。

 それは、自社を「冷静に捉える視点」が、養われていないことの現れです。自分が知っていること、経験してきたこと以外は、受け入れることができない自分がいることも分かりません。あるいは、「現実を知りたくない」と避けていることもあります。いずれにせよ、聞きたくないと思った瞬間に、「感情」を押さえることが出来なくなってしまいます。

 こうした若手社員の例を聞きながら、程度の差はあるけれど、自分にも思いたる節があるという方はいらっしゃると思います。言い換えれば、年齢や経験に関係なく、自分とは異なる考え方や意見を取り入れることは非常に難しいということです。

 事業環境が変わっていることは、一定数以上の社員たちは知っています。しかし、その変化によって及ぼされる影響にまで発想は至りません。それが故に、これまで自分たちが築き上げてきた経験が無になるような情報は無視してしまいます。

 同じように、経営者も社会が激変していることは理解しているはずですが、「どうにかなる」と高を括り、後手を踏みやすくなります。そこには、新たなやり方を取り入れたことにより、利益や生産性が下がるかもしれないという恐怖もあることでしょう。

 とは言っても、いつまでもこれまで通りにいかないのが、変革期の今です。経営者の皆さんは、この荒波をどのように乗り越えるべきか考えたことはありますか。とりあえずの措置で切り抜けたところで、問題がなくなるわけではありません。

 確実に言えることは、経営者しか会社が進むべき道を見出すことができないということです。だからこそ、経営者の皆さんにしてほしいことは、「自問」です。例えば、これまで培ってきた経験、思考のくせ、囚われている考え方、意思決定の仕方、選択肢の幅…など、そして、それらに対する自身の見解を聞いてみてください。

 これまでの常識が通用しなくなる時、新しい方法を考える必要があります。勢い任せに進めて上手くいけばよいのですが、そんなに世の中は甘くはないことを皆さんはよく知っているはずです。ピンチをチャンスに変えるならば、自分と会社の性能、ポテンシャルを理解しておくことに越したことはありません。

 チャンスを物にできる人は、虎視眈々とその時を狙っているのではないでしょうか。