第22号:モチベーションを下げた社長への処方箋

 「最近なんだか、仕事がマンネリ化してきているなと思っているんですけど…」とコンサルティング中の経営者からの一言です。とりあえず、会社は回っているし、無理をしなくてもいい状態ではある。けれど、どことなく、追い求めるものを見失ったような虚しさがあるとのことでした。

 この社長へのコンサルティングの最中、「ちょっといいですか?」と社員がドアをノックされることや、携帯電話が鳴りやまないという場面によく遭遇します。クレーム対応などの緊急案件のこともあれば、正直なところ「今、それ確認しなくてもいいでしょ」と思うような些細なことまで相談や確認がひっきりなしに入ります。

 ややもすると、社長に依存しているかのように見える言動であっても、間違えがないか確認をしてもらえる方が安心だから、細かいことにも口をだしてしまう。これは、社長自身が仕事の本質と距離を置き、目先の対応に逃げたと捉えることもできます。

 自分たちで考えて仕事を進めてほしい、成長してほしいと言いながらも、社員たちに勝手な行動や判断で、問題を起こしてほしくないという本音が見え隠れします。人を動かす時の考え方や動機は、人それぞれですが、その根本は社長自身のやる気と関わっていることがあります。

 例えば、「勝つこと」、「達成する」ことへのこだわりが強ければ、目標とそのための方法を練ります。また、それを手にするためにエネルギーを注ぎこむでしょう。会社としてなすべきことを実現するためには、社員に任せることで前進を目指します。

 築き上げてきた城を、「守る」「維持する」ことに重きを置いていれば、波風を立てないことや、奇抜なことや嫌い、過去の成功例を続けることに意義を見出していきます。社員たちが新たな取り組みを始めようとすれば、勝手なことをするなと釘を指すでしょう。

 「独自性」を発揮することが、生きる喜びだと感じていれば、他ではみたことややったことのない「自社オリジナル」を生み出すことが最優先課題となります。その辺に転がっていそうなモノや事には興味を持たないため、社員には自由な発想や柔軟な思考力を求めがちです。

 つまり、経営者が「これだ!」と思うポイントは、人それぞれということですが、それは、事業運営の在り方のつかさどるものでもあるということを理解しておかなければなりません。それゆえに、社長自身が何に動機付けされているかを知ることは、極めて重要だということになります。

 先に取り上げた社長は、守ることを優先しているように見えます。本当のことは経営者自身にしか分かりませんが、私には、「達成したい」という思いを持続することができなかったように見えました。つまり、社員たちに期待していたが、思った通りの結果は得られなかった。

 似たようなことを何度か繰り返しているうちに、自分の指示通りに動かすことで会社を守ることに気持ちが向かうようになったように映ります。それは、冒頭のマンネリ化という一言からも伺い知ることができるのではないでしょうか。

 自分の原動力が何かを知らない経営者は、悶々としながら、ただただ、忙しい毎日をやり過ごすことに傾倒することもあります。やりたいと思うことと出会えなければ、単年度の売り上げを追い求めて、疲弊してしまうこともあります。

 経営者と話をしていると、「なんでこんなことしているんだろう」、「こんなはずじゃなかった」、「もっと楽しく仕事したい」という言葉を幾度となく耳にします。社長のやる気が失せた、モチベーションが上がらない状態を放置することは、社員たちのモチベーションも下げ、引いては、会社の生産性を下げます。

 社員のやる気問題は、議論の俎上に乗ることがあります。しかし、社長のモチベーション問題が取り上げられることは、まずありません。敢えて言いますが、社長は自分のモチベーション問題は、自分で解決するしかないということです。

 モチベーションを下げる原因に、「到底できそうにないできないこと」「プラスの結果を生まないこと」に力を入れていたということがあります。やる気問題を解決するための糸口は、この会社を通じて何をしたいと思っていたのか、自分がやってきたことの意味や成果は何だったのか、と自問してみることです。

 さあ、社長のやる気スイッチどこにあるのか探しましょう。