第21号:失敗経験で人は成長するのか考えてみた結果…

 

「大野さんね、社員を成長させたければ、失敗体験させないとダメですよ。」と、ある経営者から注意を受けたことがあります。その経営者曰く、人は失敗しなければ、成長するわけがないと考えているとのことでした。

 少しひねくれているかもしれませんが、その経営者がどのような失敗体験で成長してきたのか、すごく気になってしまい、「社長は、どのような失敗をしてきたのか?」と質問させていただきました。すると、「そう言われると困る」と苦笑しながら返答された経験があります。

 これまで多くの方にお会いしてきましたが、「あの時、失敗したから成長した」と語る方には、一度も会ったことがありません。それは、優秀な人材とばかり話しているからだろうと思う方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。

 何を言わんとしているのかというと、失敗した事柄にはあまり大きな意味を持っている人はいないということです。結論から言えば、失敗経験は人を成長させています。ですが、「失敗」が成長させるのではなく、「なすべきこと」を達成する過程で上手くいかないこと、つまずいたこと、空振りしたことが、結果的に成長を促す要因となっているということです。

 ここは間違えてはいけないポイントは、「課題」が明確にあるということが大前是だということです。当たり前のことですが、失敗体験をさせることを目的としてはいけないということです。

 例えば、A会社の事業部長の話です。「新製品開発をしている時に、データを集めるのに苦労した。実験が失敗続きで、何度試しても上手くいかないんですよ。気がおかしくなるくらい、やり続けた先に、道筋が見えました。」と笑いながら話して頂きました。新製品を開発するための実験、度重なる失敗、その過程からプレッシャーへの対処、試行錯誤、やり続ける意味などを見出したということです。

 この例からも分かるように、難しい仕事、チャレンジ、ハードワーク…といったように、通常業務よりも難易度が高いことを経験することで、新たな方法を試す、失敗する、模索する、成功するまで続ける、その結果、自分が得たものは何かを問うことが、成長へとつながるようになっています。

 社員自身が成長したと実感を得るには、本人の内省が必要であることはご理解頂けたと思います。その一方で、それを経営者が推奨することは慎重になった方がよいと考えています。それは、失敗が美徳となり、無理難題を突き付けることが上司の役目になるという不可思議な現象を生み出しかねないからです。

 また、別の見方をすれば、ただでさえ、不寛容な社会の中で、欠点や汚点を作りたくない社員たちからは、会社に対する不信感を抱かせることにもなりかねません。

 社員の成長の基本は、仕事を通じてなされるものです。決められたことを決められた通りにやっていたから、成長するわけではなく、そこには、チャレンジ、難題、葛藤、…などといった業務上の課題や命題が必ず存在しています。

 今の業務よりも少し難しいこと、挑戦心が必要なテーマを与えることができるかが重要となります。それはつまり、仕事を与えている上司に人を見る力がなければならないということです。社員一人ひとりの力量、負荷のかけ方などを把握できているか、万が一、思った通りの結果に至らなかった際の対応は想定しているか、など上司には上司の対応力が必要となります。

 

 あなたの会社で、社員が成長するきかっけとなる経験は何ですか?