第43号:無理をしないで、人を育てる社長になる方法

 「経営者はさ、利益をあげてくる奴がかわいいんだよ。」と、喫茶店で隣の席から聞こえてきた声に、お行儀が悪いかなと思いながらも聞き耳を立ててしまいました。小一時間に渡り、見ず知らずの社長の仕事論を聞かせて頂くことができました。

 この社長が口にしていたことを要約すると、「俺が指示していることの意味を考えろ。考えて、考えて、考え抜け、そして、俺の期待に応えろ」ということでした。話を聞いて部下は、「そうですよね」としか答えようがなく、下を向いて時が過ぎるのを待っているかのようでした。この様子を見て、なんともいたたまれない気持ちになり席を立ちました。

 優秀な人たちは、「自分ができることは、他人もできる」と考えてしまいます。「指示や命令したことが、なんでできないんだ」憤りながらも、時間を取って、話し合えば通じるものがあると信じているように見えます。しかし、社長と面談をした結果、「部下が覚醒し、成果を上げた」なんて話は聞いたことがありません。

 何気なく使ってしまう「考えろ」の一言ですが、前後の言葉があまりにも不足しているため、結局何について検討するのか分からなくなってしまうということが起きます。これでは、対話の場を設けた意味すら無くなってしまいます。

 確実に言えることは、こんな非効率なアプローチでは、いつまで経っても社員は育たないということです。人を育てることがヘタな社長が見過ごしているのは、「業績を上げる仕組みを作っていない」、「利益を上げて何をしたいのか言わない」、「社員に期待していることを明示しない」、そして、「社員たちの仕事力を把握していない」といったことがあげられます。

 できる社員が抜けたら「売上げ落ちた、業務が回らなくなった、クレームが増えた」などといった問題が発生するたびに、「考えろ」と激を飛ばすことは組織として成長していないということです。できる社員に依存しないでも、現場の仕事が回る仕組み、その仕組みが機能すると業績が上がるという流れを作ることが必要です。

 次に重要なことは、ビジョンや目標を社員たちと共有していくことです。経営を行うことは、とてつもないプレッシャーと戦っていることは承知しています。「お金も利益も」大事ですが、「金だ」、「利益だ」と聞かされていれば、「また金の話か」と社員たちの仕事心が凍り付き、社長を冷めた目で見るようになってしまいます。

 実現したい未来、そのために必要な利益、利益を生む仕事の軸を体系化させて共有する。そして、全社・部門業績と、各人の仕事の関係性を認識できるようにしていきます。これは、モチベーション維持の観点もありますし、会社が社員に期待していることがいきわたりやすくなります。

 人を育てることは、時間も労力もかかります。「人を育てる=研修」ではありませんので、まずは、業務の仕組み化、ビジョンと目標の共有からはじめてみてください。これらを実施していくと、おのずと社員たちの仕事力(知識・経験)、各自の業績について検討する必要ができます。

 やり方は一つではありませんが、熱弁をふるい、血圧を上げるよりも効果が出そうなことを試してみてはいかがでしょうか。