第105号:安定企業の進化論

 「あのテレビ局の話題、まだまだ続きそうですね。」と、ある経営者との雑談の中で出てきた一言です。テレビ業界は「放送法」に基づき、総務省の許認可が必要なビジネスです。限られた電波を使用するために国が規制する仕組みですが、結果的に競争が制限され既存プレイヤーが守られる構造となっていることは周知の通りです。

 このテレビ局の買収を仕掛けた事件が起きたのは、2005年です。当時、テレビコンテンツに対する価値の低下に警鐘を鳴らし、インターネットとテレビの融合を狙っていましたが、失敗に終わりました。日本のテレビ業界に一石を投じましたが、結果的には業界の閉鎖性を強め、停滞を招くこととなりました。

 このような成り行きを見ていると、テレビ業界の経営者には、(1)政治・行政対応=政府や省庁との関係を重視し、許認可を維持すること、(2)業界内の調整=既存の競合他社とのバランスを保ち、過度の競争を抑える、という2点が強く求められているように感じます。

 一方で、新規参入の障壁が高く、守られた業界であるが故に、「新しい技術の導入が遅れる」、「外部環境の変化に鈍感で、異業種との連携が苦手」、「顧客の変化やニーズに追いつけず、危機対応が遅れやすい」といった課題を抱えてしまいがちです。

 このような課題を抱えやすいのは、テレビ業界に限ったことではありません。参入障壁が高く、長期的に安定した利益を得ている企業では、似たような悩みを持っています。企業が衰退していく主な理由は、市場の縮小、規制の強化、代替技術の台頭、技術革新への対応の遅れです。

 既に衰退の兆しを見せている企業や業界がありますが、経営者自身がその予兆を感じとっていなければ、成す術がないのと同じです。この時代を生き抜いていくには、「未来を予測し、積極的に技術を取り入れ、迅速に事業構造を模様替えしていくこと」です。

 なんだかすごくハードルが高そうに聞こえますが、「自社の使命を理解し、より高いレベルを目指すことができる旗振り役をすること」が経営者には求められているのではないでしょうか。

 安定した収益を確保している企業では、「経営者のビジョンがない」、「怠慢な社員が多い」、「会社は潰れないと思い込んでいる社員が多い」といった話をよく耳にします。ビジョンに関しては、「第88号:意外と知らない企業存続に必要なビジョン」で触れていますのでご確認ください。

 社員の怠慢さの中には、仕事の成果や結果があいまいなために、より良い成果・結果が何を指しているかを理解できないことがあります。自分たちの立場や権利を守るために、業務基準を下げることはもってのほかです。しかし、純粋に言われたことをやるだけが善となっていることも少なくありません。

 要するに、社員を統制すること枠組みはあるものの、上手く活用する仕掛けづくりをしてこなかったということです。上司、そのまた上司と「覚えがよい人」はどんどんと社内で顔を売ることができますが、それ以外の社員の情報があまりにも少ないということは珍しいことではないと思います。

 業務が回っていればよいという発想だけに陥ると、社員一人ひとりに目が行き届かなくなることがあります。何年も同じ業務ばかりさせていたために、その業務内容の変更や配置転換に対処できない社員が大量にいて困るという事態に遭遇している企業もあります。

 これらの現象が起きてしまうのは、社員の能力を見極める仕組み、社内外で才能がある人材を登用・採用する仕組みを作ってこなかったことに起因しています。上述したように、無理しないで経営が成り立ってきた背景を考えると必然なのかもしれません。

 既存の事業に限界が見えている以上、事業の方向性を見直す必要があります。新たな市場に適応するためには、人材戦略が必要不可欠です。人材活用に踏み出すことが、企業の運命を大きく変えるでしょう。

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