第120号:採っても辞める、その繰り返しが会社を弱くする

 「最近の一人当たりの採用費ってどれくらいですか?採用費だけがどんどん上がって、定着化しないから結局、自分が現場に出るのが一番効率的なんじゃないかと思うようになっています。」と、コンサルティング中にある経営者が発した一言です。

 「人手が足りない」と感じるたびに、採用広告出稿やエージェントの活用を繰り返します。しかし、その一手が「人手不足の解消」ではなく、「費用の増加と離職の連鎖」になってしまうケースが少なくないのが現実です。

 かつては、求人広告を出せば応募が殺到する時代もありました。しかし現在は、どれだけ予算をかけて広告を打っても、応募すら来ないという企業が増えています。このような売り手市場において、採用活動は「お金をかければ解決できる」という単純な問題ではなくなっています。

 にもかかわらず、経営者の基準は「いくらで採れたか」という目先の数字に偏っている現実があります。「1人〇〇万円で採用できた」という報告は、表面上は成果に見えます。しかし、その人材が3ヶ月で辞めてしまったとしたら、その採用は本当に成功だったのでしょうか。採用とは「人を採ること」で完結するものではありません。「採った人が定着し、活躍し、会社の利益に貢献する」ことが、本来あるべき姿です。

 採用費用が高止まりしている企業には、ある共通点が見受けられます。それは、「辞めるから採る」「採っては辞める」というループにはまり込んでいることです。このような状況に陥っている経営者は、仕方がないと思っていますが、実は「人が辞める前提」の組織作りをしていることが見受けられます。

 たとえば、面接基準が属人的で現場任せ、入社後の育成体制が整っていない、属人的な業務運営で教育コストが過剰にかかるといったことです。「とにかく人を入れる」ことが目的化してしまい、採用の質や人材の定着には無関心という状態が慢性化しています。

 採用費を本当に削減したいのであれば、「辞めない人を採る」ことが先決です。採用は単なる人事の業務ではありません。事業の拡大・継続性・利益率に直結する、経営の根幹にかかわる行為です。だからこそ、経営者自身が採用戦略に主体的に関与し、ビジョンや価値観、将来の戦力設計までを視野に入れることが必要です。

 対照的に、入社直後の退職によって生じる損失は極めて大きなものです。広告費や紹介料はもちろん、面接・選考に費やした時間、人事・現場担当者の稼働、入社初期の教育コストまで含めると、大きなダメージです。さらに、既存社員のモチベーションが下がる、求人が繰り返されることで組織が不安定であるという印象を社内外に与える可能性があり、中長期的な経営リスクにもなり得ます。

 こうした採用活動の流れを変えるためにも、退職を出してしまう背景や理由、退職を出さない施策の検討が必要不可欠です。離職の原因を突き止め、働きやすさや育成環境を整え、評価制度やキャリア設計を見直すことで、辞めにくい組織をつくることができます。

 採用費を削減することに成功している企業に共通するのは、経営陣が採用を「経営活動」として捉えている点です。自社の魅力を社員自身が語れる環境があり、紹介・リファラルを活用する仕組みを活かしています。人材を外から獲るという発想だけでなく、中から育てる、魅力で引き寄せる、という視点が強く働いているのです。

 さらに、採用活動の効果測定においても、単に採用人数やコストを追うのではなく、半年後・1年後の活躍度合いや定着状況を評価指標として取り入れる企業が増えています。このように、採用を入口だけで終わらせず、定着・活躍・貢献までのプロセスを経営指標に組み込むことで、採用費用の最適化が実現されるのです。

 人が集まらない、すぐ辞めてしまう、採用コストがかさむ──こうした課題の本質は、採用そのものではなく、経営の視点と仕組みにあります。

 あなたの会社は、採用にかけた費用が「投資」になっていますか?
  それとも、「損失」に終わっていますか?