第152号:人事が機能しない会社は何が違う?

 経営者を悩ませる「人事問題」の正体

経営者の皆さまと話をしていると、人に関する悩みはいつも目前の困りごとを語ります。それは、厄介なことに、売上や原価のように数字では割り切れないことです。採用難は採用難だけで終わらず、教育の遅れは品質や安全に影響します。退職は現場の士気を下げ、残ったメンバーが疲弊し、さらに退職が増えるといった負の連鎖により歯車が狂い始めてしまうことがあります。

なぜ、人事の問題は慢性的になってしまうのか。これは、人事の核心に触れない限り、ステージを変えることは難しいです。

人事課題が解決しない原因は何か

人事に関する事案がうまくいかないのは、人事の課題そのものを見誤ることにあります。採用の母集団形成に広告費を増やす、紹介会社を変える、制度を整える、研修を入れるなどといったように、どれも正しい手段のように見えます。

ところが、結果が変わらない企業が多いのはなぜでしょうか。理由はシンプルで、問題が入口ではなく、内部にあるからです。例えば、制度設計を先にしてしまい、現場運用が追いつかない。評価制度を導入しても、評価者が腹落ちしておらず、結局「上司の好き嫌い」になる。採用基準が曖昧なまま人数だけを追い、現場にミスマッチが溜まる。属人的な教育で、忙しい人ほど新人を見なくなる。結果として、人事は「未来投資」ではなく「火消し」に終始する。

これは能力不足ではありません。経営者が手を抜いたわけでもありません。むしろ真面目な会社ほど、真面目に「ズレた努力」を積み重ねてしまうのです。

人事問題の本質は「経営構造」にある

人事問題の本質は、「人が足りない」でも「優秀な人が採れない」でもありません。真髄は、もっと経営の中枢にあります。これは、自社における人事の施策の根本的な考えた方に由来する問題です。

人事の機能は、本来「人を増やす技術」ではなく、人が力を発揮し続けられる条件を整えることが仕事だからです。採用は、労働力を補充する行為ではなく、会社の未来を選ぶ投資判断です。育成は、研修の実施ではなく、仕事の設計です。評価は、点数付けではなく、何を価値とするのかを宣言することです。

つまり、人事は制度ではなく、経営の思想です。そして思想は、現場の空気と意思決定に大きな影響を与えます。

もう一つ重要な視点があります。
人事問題が放置される背景には、経営者の心理が関係します。人の問題は、財務や設備と違って「正解が見えにくい」。だからこそ経営者は、無意識に「確実なもの」を選びがちです。設備投資、販路、商品、値上げ交渉。そこには因果があり、手応えがある。
一方で人事は、感情・関係性・文化・学習が絡み、成果が遅れて出る。そのため、重要だと分かっていても、優先順位が下がりやすいのです。

「人事軽視」ではなく、短期で確実性の高いものを選び出してしまうのは、当然のことです。

人事戦略を立て直す実践ステップ

人事の再設計とは、制度を増やすことではありません。方向性として必要なのは、「辞める原因を放置しない」「仕事と育成を整備して採る」「任せられる状態をつくる」ことです。

1.現場の仕事を見える化し、属人性と曖昧さを言語化する。

2.管理職の役割を再定義し、「成果を出す人」から「成果が出る状態をつくる人」へ移行させる。

3.評価や育成の共通言語を整え、判断基準を一致させる。
この順番を踏むと、採用も定着も育成も同じ方向に向けた施策展開ができます。

そして経営者ができる最も重要な行動は、現場の問題を「個人の能力」で片付けないことです。「誰が悪いか」ではなく、「なぜそうなる設計なのか」。ここに思考を移すだけで、人事の議論は一段深くなります。

人事課題を解決するために経営者がやるべきこと

人事問題の本質は、「人が足りない」という現象ではなく、人を使って回す前提の経営構造にあります。だからこそ、人事は「制度の話」ではなく、経営の設計であり、意思決定の哲学です。

いま会社で起きている人の問題は、どんな組織設計の問題ですか。