第50号:社員の辞表から何を学べますか?
「採用した社員たちに、徹底的に技術を教え込みました。そしたら、全員辞めました。スキルを持った社員は辞めるんですよ。」とある社長が悔しそうに語った一言です。社員が会社を去っていく本当の理由は聞いていないけど、「たぶん、××だろう」と勝手な解釈をしていませんか。
この社長から社内の状況等を伺いしていると、退職の引き金を引いている要因は別にあるとみています。このように、社員たちの退職理由を勝手に決めつけている社長は、実はあちらこちらにいらっしゃいます。裏を返せば、「退職理由」を把握していないということです。
退職者の本音を知らないというのは、もったいないとしか言いようがありません。ある会社は、コロナ禍の数年間で3桁を超える社員が退職していきました。この事態に危機感を覚えた社長は、早々に人事部門に退職希望者との面談を指示していました。
面談をしたから退職希望を取り下げることはないでしょうが、何よりも重要なことはそこに至る経緯を知ることです。例えば、立て続けに同じ職場、部門から退職者が出ている場合、概して職場や上司に問題があります。「無茶苦茶な指示を出す上司」、「陰で人を貶めるような社員たちがいる」、「殺伐とした職場が嫌だ」などの声を拾うことができます。
この人なら大丈夫だろうと、管理職を任せているはずですから部門や職場をまとめていくにあたり、いちいち細かいことにまで口を挟むことはないと思います。ところで、その管理職たちが適切に部門管理を行っているか確認していますか。
ドキッとして頂けるなら安心しますが、まさか、任せっきりにはなっていないですよね?と確認しましたが、世の中の大概の経営者は、部門運営は管理職にお任せ状態にしています。何事もなければそれでいいのですが、場合によっては、大きな事故や問題を発生させる諸悪の根源化している管理職も一定数います。念のためにも、各部門に注意を払うことをお勧めします。
退職者の声は、現状理解や会社の将来を予測する上でも有効に活用することができます。内情を理解している彼らの意見は客観的で、普段は社長の耳には入ることがないようなことを教えてくれるはずです。ですから、そうした情報を収集し、改善のための役立てていくことは極めて重要なことです。
退職したいという意向を聞いただけで、裏切られたと感じることもあるかもしれません。特に、創業経営者であれば、一緒に会社を作り上げていく仲間であり、家族よりも長い時間を共に過ごしたのに…と様々な思いがめぐることだと思います。
会社の成長を共に目指した社員の退職に感情が動くことは、当然のことです。ただ感慨にふけるのではなく、退社してゆく社員たちが残していったメッセージを有効利用するかを考えるのが、経営者の役目なのではないでしょうか。
通常、退職者に関わる取り組みは、人事部門が検討すべきことです。そのため、詳細は現場に委ねるとしても、退職者数の減少、退職者希望からのヒアリングおよび情報の効果的な活用に関する指針は経営者が出す必要があります。これらを踏まえながら、管理職の力量、各職場における人間関係、現場に課題や問題点を把握していくことは、これから先の経営を検討する重要な判断材料となります。
離職者たちが、あなたの会社のよき理解者となる方策を検討してみませんか?