第83号:資産管理を忘れた負け組企業


 「退職者が増えていまして、そのしわ寄せで現場は疲弊していますよ」という話は、よく耳にします。人事の皆さんとお話をさせて頂いていると、退職者が出ることは仕方がないと割り切って事態を見ているようです。人に関する問題が起こると、人が辞める→定着しない→採用が悪いという筋を引きたがる経営者は意外にも多数存在しています。

 事業を構築する、進展させることに興味や関心が向かう経営者や経営層には、人が絡むことはからっきりという方が大勢いることは周知の通りです。そのことが災いし、人に対する問題解決がどうにもこうにも「下手」としか言えないような手を繰り出し、余計に事態を悪化させているケースに遭遇することがあります。

 少し冷静になれば誰にでも分かることですが、人が定着しない理由は必ずしも採用に原因があるわけではありません。全ての方がこのような思考に陥るとわけではありませんが、人材に関わることとなると限定的に状況を捉えてしまう方がいるのも事実です。それは、人材という資産を運用し拡大化させる観点が養われていなという見方もできます。

 自社の商売を上手く軌道に乗せたい、成長させたいと考えている時、技術力、展開力、訴求力などさまざまな角度から本来の目的や意図に応じた活用を目指していきます。ところが、人材に関しては多面性や時間軸に対する認識を深め、広げることを軽視してきたように映ります。

 人に指示する立場からすれば、「1言えば10分かる」いうような察しの良さを期待してしまいます。あるいは、指示すれば動ける人材を求めるのではないでしょうか。仮に、後者を必要とするのであれば、指示で動くように業務を細分化していかなければならないのは、言うまでもありません。まさに、代わりはいくらでもいるといえるような体制を整えてしまうということです。

 ところが、このような業務分担だけでは上手く人を動かすことが難しくなっているため、いつまで経っても人に振り回されることとなります。面白いと言ったら怒られるかもしれませんが、人に課題がある会社のトップほど人材に対する問題意識や危機意識が薄いように感じます。

 さて、皆さんも感じていらっしゃると思いますが、これから先は今まで以上に人に関する厄介事は増えていくことが想像できます。ですから、今後の経営を考える上で「人材」という観点を加えることは、大きな意味を持つと考えています。

 また、現時点での自社の状況から考えることも必要です。例えば、退職者が続出するような企業であれば、人材という財産の価値を高める工夫を疎かにしてきたということです。厳しい言い方かもしれませんが、労働市場の中では敗者企業という不名誉なレッテルを貼られているかもしれません。

 人材は資産ですが、日本社会の中ではまだまだ消耗品的に人を使うという感覚から抜け出すことができません。それは、細分化された仕事をいつでも誰にでも、採って変えることができた時代を引きずっているかのようです。

 一方で、そうした一世代前の経営に執着している企業が多く、労働者からの評価が可視化されている時こそ、自社の人材価値を高める仕掛けづくりに着手することは、人材の活用や組織発展の優位性を確保することに繋がるのではないでしょうか。

 あなたの会社で、価値が高い社員とはどんな人ですか?
 絶対に手放したくない人材はいますか?