第102号:会見から考える企業の欲と美学
「あのテレビ局って、ものすごくダサいですよね?」と、ある女性経営者との雑談で出てきた一言です。男性大物芸能人の女性スキャンダルから始まった話が、実は番組を優位に制作するために会社が女性社員を利用していたのではないかと問われている問題です。
テレビ局と言えば、一時期は超人気就職先に名を連ねるほど、圧倒的な地位を築き上げた業界です。就職競争に勝ち、超大手企業を相手にする優秀とされる人たちが集まっている集団です。そのような組織が、閉鎖的な会見を開き、今後についても曖昧な見解で終わらせる姿を見て、驚きを隠せませんでした。
この報道を見て、自社での優秀さを決めること、社員各人が優秀さを維持することの難しさを改めて痛感しています。会社によって定義は異なりますが、優秀さとは業績の向上に貢献できることを指しています。そのため、結果が分かりやすい仕事に従事している人が評価されやすいことや、目先の数字ばかりを追い、中長期的な視点が欠如してしまうことがあります。
特に、業績や結果を求める志向が強くなっている時、やり過ぎ社員が生まれてしまいます。データを改ざんする、自腹で商品を購入する、接待頼りになるなどというように、なんとしてでも業績を上げようと自らを追い込む、あるいは追い込まれてしまうことがあります。周囲はそうした状況に薄々気がついていたとしても、黙認してしまいます。
本当の所はどうであれ結果が出ている時というのは、その勢いをさらに伸ばしたいと考えるのは当然のことです。ですから、追い込めば数字が上がる、などのように自社なりのやり方やルールは、より強固なかたちとなり、受け継がれていくことになります。社員として一度会社に染まってしまえば、事の良し悪しに疑いすら持たなくなってしまうことがあります。
業績を上げてくる社員はエースなどと呼ばれ評価されますが、結果が出ている過程に着目しなければ、会社を窮地に追い込む可能性があることは決して忘れてはいけないことです。
このように、企業経営において経営者は、「欲」とどのように向き合うのかを問われることがあるのではないかと考えています。本音や本心は分からないことの方が多いですが、社員たちが何を望んでいるのか知っていますか。そして、社員一人ひとりの「安定した生活をしたい」、「会社に居続けたい」、「認めてほしい」という欲求を満たす、あるいは、「力を誇示したい」、「権威を発揮したい」という願望をかなえる場はありますか。
人は、自分がしたいと切に願っているにも関わらず、それが何かが分からなくなることがあります。会社に入って何がしたいのか、どうしたいのか、なぜ、ここにいるのかを忘れてしまうことがあります。それはそれで、マネジメント上は都合がよい面もありますが、長い目で見ればマイナスの側面が大きいです。
どれだけ優秀な社員であっても、自分の欲求の根源を自覚しなければ、欲に負けることがあります。不祥事を起こさないまでも、「承認欲求」によって他者との軋轢を生む、「現状維持への欲求」が事業の革新性を奪うことは周知の通りです。それは、経営者であっても同様です。
冒頭に挙げた社長が発した「ダサい」という一言は、経営者の事業に対する美学が感じられなかったというという意味だと理解しました。経営陣の穏便に済ませたいという欲は、これまで築き上げてきた事業価値、報道機関としての正義感、上場企業としての道徳観やプライドを全て捨ててしまったかのように映りました。
他社で起きている事案に、皆様々な意見を言います。あなたはどのような観点から、意見を述べますか?
あなたの会社に、美学はありますか?