第33号:成長し続ける企業のずるい人材評価術

 「大野さん、なんで大手企業はわざわざ外部機関に人材評価を依頼するんですか?」とコンサルティング中に、ある社長からご質問を頂きました。仕事やそれに必要な知識も経験も自分たちが理解している、それに、できる社員とダメな社員って、大体見分けがつくはずなのに、わざわざお金をかけるのかと、疑問を感じたそうです。

確かに、過去にこのコラムで書いた人事評価に関する記事、「第3号:社長が考えるべき、人材の資産価値を高める人事評価」、「第7号:社長が作らないと“損する人事制度”になるワケ」でも、事業成長のためには社長が人事制度を作るべきとお伝えしています。

 制度を作ることと、それが機能しているかは別の話です。人事評価は、上司の評価能力に相応しているため、その力量の範囲内で社員の能力を測ることとなります。つまり、どれだけ完成度の高い制度ができたとしても、評価者の好みや評価眼、職場環境など、評価結果の妥当性を確保していくための課題は出てきます。

 また、自社で作成した評価項目は、さまざまな要因を加味して測定可能な項目数にしているはずです。ですから、事業運営や成長に必要な不可欠な項目に絞られてしまいます。実務的には問題ないですが、新規プロジェクト等への抜擢、管理職や役員への登用の決め手となる材料が少なすぎます。

 そのため、外部機関を活用し、候補者の中から有能な人材か否かを見定めていきます。このように専門家からの支援により、客観性の高い人材評価を得ることは、社員の能力に関する情報収集です。特に成長し続ける企業は、このような情報を集めて、配置、任用に役立てています。

 「そんなことのために、わざわざお金を出す必要があるの?」と、首を傾げたくなる方もいるかもしれません。信じられないかもしれませんが、社員の能力に関する情報を集め、活かしていくことは極めて難しいです。裏を返せば、成長し続ける企業は、他社がお金を掛けたくないようなところに投資をして、リターンを得ているということです。

 この観点は、成長し続ける企業になるか、衰退していく企業になるのかの大きな分かれ道です。繁栄を続ける組織が「偏りのない目線」に敢えて力を入れるのは、なぜなのでしょうか。人材評価に投資する理由の1つに、人材の質を横一列にして比較検証することができる点があります。

 通常の人事考課や人事評価は、上司が見える範囲での評価になります。ですから、組織全体として、どれくらい力量がある人物がいるかを把握することが困難となるため、全体を把握する上で有用です。加えて、横並びで評価できると、人事に対して口を出したいという「ある特定の部門による政治力」や「影響力」が及ぼされることを阻止することができます。

 別の言い方をするならば、上司の人材評価、人材育成に関する力を見極めることが可能です。上長の推進で選ばれた人材が必ずしも、「できる社員」とは限りません。それどころか、なんでこの人を推薦したのか?と疑問が湧くこともあります。面白いことに、その疑問符がつく社員を推薦してくる上司は、同一人物であることが少なくありません。

 ここまで見てきたように、賢い組織は、「人を上手く使う」ことに長けている集団のように思います。「できる社員」を評価したいという社長の思いが、人事制度や評価制度を作るだけでは機能しないこともあります。人を評価し、活かしていくには、人事制度を補完するものを活用することも有効です。

あなたの会社は、人材評価の質を高める術を持っていますか?