第32号:優れた経営者は何を学んでいるのか?

 業界トップ企業として、業界全体を牽引なさっている方からお話を聞かせて頂くことができました。この社長とお会いしてみたいと思ったのは、とある勉強会で若手からの質問に対して丁寧に回答なさっている姿勢に共感を覚えたのが最初でした。

 業界をリードしている会社のトップは、どんなことを考え、どのような道を歩んできたのをお聞きしたいと思いアポイントを頂きました。終始にこやかな雰囲気を保って頂きながら、社長ご自身のご経歴、現在の仕事、趣味やご家族のことなど、まるでおしゃべりを楽しむかのような時間を過ごさせて頂くことができました。

 ここまでのやり取りでもお分かりになるように、この社長は、人との関係づくりがとても上手です。特に、フラットな人間関係を築き上げていくことに長けています。会社の関係者や元同僚はもとより、同業他社などあらゆる分野の人たちとの関係を楽しんでいるようで、まさに「人が寄ってくる経営者」のように映りました。

 人を呼ぶ、人から呼ばれるということは、1つの商才です。商才と聞くと、生まれ持った才能のように聞こえるため、自分とは縁がないことだと決めつけてしまう方がいます。が、それはもったいないので、この社長に「人が寄ってくる」という1つの才能が開花している背景を一緒に見て、その技を盗みましょう。

 「仕事人生で一番苦しかった時期は、部長時代。部下たちへの指導の問題があったのかもしれないけれど、顧客からのクレームがものすごく多かった。クレーム対応に追われる毎日に嫌気がさして、大学院という逃げ道を見つけた」と笑いながら話して頂きました。

 裏を返せば、クレームが起きている原因と解決策を導き出すためには、知識武装しなければならなかったといことでしょう。武器を持って現場に乗り込み、有無を言わさないように改善指導をなさったようで、契約を死守することができたそうです。

 こうした問題は、社長の会社のみならず、業界全体で起きており、それが業界に対する不信感を与えている要因となっていました。そこで、社長は、業界の信頼回復を図るためにも、ご自身が培ってきた知識やノウハウを業界関係者に伝播する活動を行っています。

 要するに、この社長に人が寄ってくるワケは、「みんなが困っていること」を解決する術があるということです。それにお人柄も加味されて、より一層多くの方が集まってくるわけです。このコラムの中でも何度となく触れていますが、人を動かすにはそれに見合う努力が必要です。

 自身の商才を開花させるのは、目の前にある現実や問題に立ち向かうことです。そこに真摯に向き合うことで、「自分が何をしなければならないのか」という「役目」と出会うことができるのではないでしょうか。社長の話をお聞きする中で、自社と業界を導いてきた自負を感じると同時に、業界全体を底上げさせるという強い責務を持っているように感じました。

 恐らく、これから私たちは、目先の利益を得るためには、何をしてもかまわないという手法で経営してきた会社のなれの果てを見ることになると思います。「今だけ、金だけ、自分だけ」という3だけ主義は、確かに瞬時に成果を得ることができるのだと思います。ただ、それが長続きしないということも私たちは、知っています。

 秀でた経営者たちは、実務能力に長けて、10年先、20年先を見据えています。彼らは、経営に必要な能力と人格を鍛え上げてきていきます。つまり、経営者自身が鍛錬することが、事業を発展させていくために、最も重要なことだということを誰よりも理解しているのではないでしょうか。