第98号:社員を虜にするズルい経営術
「退職者の中には、うちの会社のことを大好きだった人たちがいるんですよ。」と、定年退職した社員を招いて開かれる懇親会について、お聞きしていた時に出てきた一言です。愛社精神という言葉がありますが、自社で働くことに誇りを持ち、帰属意識を高めることによって企業力を高めてきました。
時代は変わり帰属するという感覚よりも、この会社で「この仕事」をしたいと願って入社してくる社員たちが増えています。彼らの基軸は「仕事」にありますので、希望通りの職場、業務、成長機会を得ることができなければ、転職を前向きに考えていきます。
これまでの数十年間は、社員を同一視することで、組織に対する求心力を高めることが可能でした。しかしながら、昨今話題に上がる人材不足、多様性への対応、定着率の向上などといった課題を解決するのは、一筋縄ではいかなくなっています。
社員の働く意識というのは、個人的な志向性であり、本人やその家族の置かれている状況で変わることもあります。そうしたことを考慮に入れると、一人ひとりの立場や置かれている状況、心情に配慮できる体制づくりが必要不可欠になるのではないでしょうか。
こうした提案をすると、「そんな余裕なんてない」、「学校じゃないんだから」、「現実的じゃない」と瞬発的にこうした言葉を返されてしまいそうですが、冷静に考えて頂ければ当たり前のことを言っているだけだとご理解頂けると思います。
仕事や組織に対する意識の差はあるかもしれませんが、会社や仕事に対する愛着心を高めることは、経営的な側面からみても損失を生むようなものではありません。逆に、数値化されませんが、組織や仕事に対する不平や不満を抱え込んで仕事をしている社員たちの存在は、大きな事故・事件を起こす可能性はゼロとは言い切れず、隠れた負債を抱えているようなものです。
国の方針や緊急事態があり各社が動かざるを得ない事情もありましたが、休暇制度の拡充(有休取得率、半休制度など)や在宅勤務、上司と部下の個別面談などといったように、一律的な管理から社員の希望や状況に応じた働き方・成長機会を提供できる環境は整備されつつあります。
こうした取り組みに、それなりの体力が必要ですし、管理職の業務差配力も必要となります。しかし、社員の立場になって考えれば、「自分の都合を考えてくれる企業」は「よい企業」の部類に入るのではないでしょうか。つまり、如何に社員を大切にしているかを「社員に示す」ことで、魅力的な職場であると認識させていくことができます。
自分の都合を優先することが当たり前になると面倒な社員が増えるという方もいますが、そうした影響も踏まえて自社なりの方策を打ち出していくことが求められていると考えています。
経営における人材の施策の多く、採用、育成などというように単体で管理されがちです。ところが、今回提案した働きやすい職場づくりを整備することにより、人材採用の場面で優位性を発揮することができるようになります。働きやすい制度、成長機会の場はあるというだけで、応募者が集まってくる位です。
働く上で大切にしたいことというのは、それだけ、人に大きなインパクトを与えます。うちの会社が好きだという時、それは人によって異なります。だからこそ、××を大事にしたい、〇〇に共感できる、△△を追求したいというような自社の価値観を明確にしていくことが経営者の仕事となります。
企業の体力を強化していく時に、その組織の魅力度を上げていくことが重要です。
カリスマ的な社長は人を呼び寄せます。
もし、自分には強い個性がないと思うなら、人を惹きつける組織づくりにチャレンジしてみませんか?