第37号:あの社長と同じ轍を踏んではいけない
誰もご存じの会社の人事部門のトップである常務とお話をさせていただいた時のことです。「広告を打ち出す際の考えまで、人事が把握できるわけがないんだよ。」と、日本を代表する芸能事務所の対応について話していた時に、ふと出てきた本音の一言です。
記者会見の後まもなくして、所属タレントの起用における方針が各社から発表されています。また、正式なアナウンスとまではいかないまでも、取材やインタビューなどで広告に対する考え方を示している経営者もいました。それらを見ていると、「なるほど」と感心することもあれば、「あの会社なら、このような対応になるだろうな」とこちらの予想通りの対処を打ち出してくる会社など、各社の対応の違いを比較するよい機会となりました。
公表に至ったプロセスは推測でしかありませんが、明らかに「右へ倣え」と言わんばかりで体裁を整えただけはないかと、感じる企業が圧倒的に多かった印象です。とりあえず、足並みを揃えておけば、叩かれることはないという他律的な発想に流れる会社。あるいは、よかれと思って発していることが、偏っており、物議を醸し出した会社や経営者の発信。
各社からの発表は、消費者として、取引先として、あるいは関係者としてなど、大勢に投げかける視点がいくつもあったように思いますが、皆さんはどのように受け取りましたか。各社の方針が出るたびに、一体何人の経営者が、この案件について真剣に向き合ったのだろうかと疑問を抱きながらニュースを読んでいました。
人材の資産価値を高めることを推奨している立場としては、人は資産であり「活かして、伸ばして、活躍させる」ことによりその価値を上げていくべきだと考えています。以前のコラム、「第2号:人材の資産価値を上げられない社長の人材観」にも書いていますが、人材をモノと同じにように消耗品であるかのように扱う時代は当の昔に終わっています。
話は冒頭に戻りますが、某芸能事務所の「性加害問題」における取引先企業における対応事例と企業人事について語りあっていた際に、出てきた企業の本音です。このような問題で、人事部門が対応に追われることはないとは思います。敢えて、その話題に触れ、どの程度の問題意識を持っているのか試させて頂きました。
「何様だ!」とお叱りを受けるかもしれませんが、ある程度のポジションについているということは、見識の程度と会社のレベルを測られてしまうのは致し方がないのでは…と考えています。「分かるわけがない」と言えてしまうのは、胸襟を開いて頂いていると思えばありがたいことですが、心許ないと一言です。
大企業となれば、顧問弁護士や広報部門など様々な専門家たちが連携し、間違いのない道筋を描いていくことができます。ところが、そのプロセスに関与していない経営陣たちが、思わぬ場所で発した一言でボロが出てしまうのは、思慮の浅さが露呈したとも言うべきことなのでしょうか。
大手企業、グローバル企業には、国際社会から「ビジネスと人権」に関する原則に則ることを求められています。つまり、世界で事業を推進していくためには、これらを守らなければ、商売ができる市場が狭くなっていくことを意味しています。
そのため、海外での事業展開で設けている企業であれば、今回の事件への対応に敏感になるのは当然のことです。残念ながら今のところ、日本企業は「指摘されないと動けない」、「動いたら転ぶ」という状況です。国際社会と照らし合わせると、人権に関する課題が圧倒的に多いのが私たちの国の現状です。
海外からの異議がなければ、やり過ごされてしまうことが情けないですが、これを機にビジネスと人権の在り方が国際水準へと近づいていける支援に尽力します。
経営者のみなさん、海外での事業展開と人材に関する方針を明確にしていますか?それ、時代錯誤になっていませんか?