第38号:人手不足でやりがちな人材登用のミス
「大野さん、やっと問題児が異動になりました。」とある会社の人事部のYさんからご報告の連絡がありました。同じ職場に勤務する問題児の対応に相当悩んでおり、長い間ストレスを抱えている状態だったため、ほっとしたようでした。
さまざまな個性を持った方々とお会いしますので、時には服装、話ぐせ、思考の仕方、物事の捉え方などに独自性を発揮される方に遭遇することもあります。ただ、そうした方々も会社組織の中で、立場や役割を持って活躍なさっているので、「その人らしさ」を発揮していると認識しています。
Yさんを悩ませた問題児は、「その人らしさ」という一言ではとても許容することができない人物でした。その行為とは、重要データの入力ミスを何度も繰り返し、そのたび隠蔽工作を図る。社員に対する嫌がらせで、休職に追い込む。など、誠実さの欠片も感じることができないものでした。
なぜ、このような社員が生まれるのか…。実は、この問題児は派遣社員からスタートし、契約社員から正社員へと登用されており、より安定した地位を勝ち取ってきています。恐らく、本人は優秀だから正社員になり、なおかつ人事で仕事することができていると自負していたはずです。
この会社では、上長推薦のみで正社員になれるようでしたが、他社の例を見ていると、派遣や契約社員から正社員への登用は、審査を行い慎重に選抜されています。面接、試験、論文審査などを通じて、上長以外の評価を入れることで正確に適性を測ることに努めています。
つまり、正社員に登用するということは、決められた仕事を決められた通りに行う作業者とは異なる能力を求めているということです。それにも拘わらず、人手不足で業務に支障が出ているような職場では、単純労働を担っているスタッフを社員へと安易に登用してしまうケースが珍しくありません。
この会社もそうですが、多くの会社では正社員への登用後に研修等の機会提供はありません。正規社員となれば求められる仕事の基準値が大きく変わります。会社組織の規範、仕事における基礎知識や作法など、教わる機会すらないまま毎日の業務に没頭していきます。
そうした中で、知らないことの多さや業務知識のなさを痛感していくことになります。これまで培ってきた経験が活きない、「やばい」「どうしよう」そうした焦りは誰でも持つ可能性があるのではないかと思います。一般的には、このような状況下で自分がすべきことを正しく考える力を持っています。
今回紹介している問題児は、物事に向き合うだけの力がないが故に、他者を攻撃することで不安を払拭していたように感じます。しかし解せないのは、大きなトラブルになる前に、予兆に気が付き阻止することができなかったのはなぜなのかということです。
私見ですが、このように問題を起こす人が生まれる職場には、ある共通点があると考えています。この問題児を登用した上司は、誰もが認める「ザ・昭和型上司」でした。セクハラ、パワハラを全く気にすることがなく、経験則を何よりも大事にする方です。論理や理屈が苦手で、「そんなやり方でできるわけない。俺は××してやってきたんだ!」と怒りをまき散らすタイプです。
つまり、自分のやり方に反対する者、従わない者が許せないわけです。そのような上司が重用したのが、例の問題児でした。自分を引き上げてくれる人の前では、いい顔をしますが、自分の立場を脅かす者を徹底的に排除する。やり方は違いますが、ともに「自分を守る」ための防御が、他者を攻撃することであれば、周りの社員たちは事が起きることを期待していたのかもしれません。
会社の戦力を上げていくには、誰をどのように活かしていくかという戦術が必要です。社長自身が、それぞれの戦闘力を把握できないまでも、評価する役員や管理職が、人材を見極める能力を持っているは知っておくことは重要です。
あなたの会社で、人を見る目がある人は誰ですか?