第71号:心も体もケアできない経営者が陥る深い闇
どのような組織であれ責任を担う立場や役職に就く方々には、相応の負荷が掛かります。特に、経営に近くなればなるほど、その重圧と孤独感で押しつぶされそうになる自分との戦いを強いられるのではないかと思います。先日、親御さんから経営を引き継いだある経営者と話をさせて頂く機会がありました。その苦悩の日々をお伺いし、少しでもお役に立てばと思い筆を執りました。
顧客との関係、取引先との関係、社員との関係、結局のところビジネスは人を相手に動かしていくものです。ところが、後継者として経営を受け継いだ方がやりがちなことは、自分の能力の高さを示すことで存在感を出すことに躍起になってしまい、「人」を軽視してしまうことがあります。
親御さんとは異なった視点や観点が求められることももちろんあると思いますし、成果を出さなければならないことも事実です。とにもかくにも新しい体制を築くことに夢中になる一方で、先代が残した社内外関係者という資産とどのように付き合っていくかは、重要なテーマであるにも関わらず蔑ろにしてしまう方が多いのも、また事実です。
そのため、こうした人に関する課題は即座に目がいくことも少なく、ある程度体制が固まりつつあると思った頃に、噴出することが多いように感じています。そして、その時に感じるストレスはこれまでに経験したことのないような苦痛を伴うものなのではないでしょうか。
自分の力量が及ばない範囲、つまり、仕事の内容そのものではなく、他者が関与することで受ける精神的な負荷は誰しもが幾度も経験するものです。ですから、これまでどのように自身と向き合ってきたのか、過去の出来事をどのように対処してきたのかを問われるのではないかと考えています。
人生の中で壁にぶつかったことがない人などいないでしょう。その壁をいかに乗り越え、自分なりの定見を持つということはとても重要なことです。人との関わりやそこで生じる葛藤が全くないということは、付き合う人が限定されているということですから別の意味で大問題です。
さて、責任のある立場にいる方々の中には、ジム通いなどのスポーツによって健康と同時に、仕事以外に没頭できる何かを持っていることもあります。ストレス発散、健康管理を行うことは大切なことですが、そこにのめり込むようにして、自分の置かれている状況から逃避している人がいます。
スポーツだけではありませんが、ギャンブル、たばこ、買い物、甘いものなどちょっとした息抜きのつもりがいつの間にかそれ自体が目的化されてしまい人生を狂わせてしまうこともあります。
人間なんてそんなに強くありませんから逃げることも時には必要だと思います。しかし、経営に携わる方々が現実逃避を始めるとろくなことがありません。某中古車販売会社の2代目社長のことを思い出してみてください。突き付けられた現実から目を背けて、楽な方を選ぶと会社は壊れます。
ドラッカーは、「まず自分をマネジメントできなければ、他者をマネジメントすることはできない」という名言を残していますが、自分の内面を理解していなければ、人を動かすことはできないということです。経営層の仕事は成果を上げることですから、より自己統制が重要となります。
様々な手法があると思いますが、自分の弱さと向き合うことや、人との関わり方に対する気づきとその対処法を習得することは経営者としての必須要件なのではないかと考えています。
あなたはご自分をマネジメントできていますか?