第11号: “社員教育はいらない” は大間違い
「大野さんね、社員を教育する意味なんてありますか?僕は、人は勝手に成長するものだと思っているし、自分も教育なんて受けてないですよ。」と、ある経営者が語った、社員の教育についての考え方です。
業務を通じて人を訓練する手法(通称OJT:On the Job Training)があります。OJTとは、「おまえら自分勝手に適当にやれ」と、社員たちをほったらかしにしていているだけで、教育していないことを揶揄した表現がなされることもありました。それでも、時が経てば、業務をこなす力を身に着けていくことができました。確かに、人は勝手に育つのも事実ですが、だからと言って、それが無駄だと決めつけるのは早計です。
とある会社の話です。国内市場だけでは生き残れないと、数年前から海外進出に本腰を入れ始めました。現地で実務を担う中堅社員が、自社の実力について実感したことを話してくれました。現地社員を上手く使い、業務を回す予定でした。ところが、思ったように作業が進まず、期日や品質などの基準を守れないことが次第に増えていきました。
何とか現地社員たちに協力を要請しますが、日本人と同じようには動いてくれません。結局、遅れを取り返すための作業負荷は、日本から派遣された社員たちの肩の重くのしかかってきます。困り果てて上司に相談しても、説得してこい、理念を語って共感させろ、話せばわかるから、と具体的な指示や助言が全くありませんでした。
分かったことは、「うちの会社はやばい」ということでした。当たり前と信じてきたものが、まったく通用しない。現状を打開する術を持たない自分たち…すでに世界から取り残されていると痛感しました。
社員教育は、仕事に必要な知識や技術を教えることです。この例からも明らかなように、「勝手に育った」とおぼしき上司には、問題を解決できない、人を動かせない、部下を疲弊させるなど、新天地で事業を推進する力が備わっていなかったということです。
程度の差はありますが、どこの職場でも似たようなことは起きています。ビジネス環境やその前提条件が大きく変わり続けている中で、社員教育の必要性は理解しているけど…と二の足を踏んでいる経営者も多いのではないでしょうか。そうした要因の1つに、研修と教育を一緒くたにして、研修で人は育たないと考えていることがあります。
研修に参加させても人は育たないのは、当然です。筋トレに置き換えれば、体の構造やトレーニング方法を学ぶ場を研修として捉えれば、その理由が納得できるはずです。習ったことを自宅やジムで繰り返し続けるからこそ、その目的の達成に近づけるわけです。つまり、研修という場を与えただけで済ませていることが、育たない現象を生んでいるということです。
加えて、「教育投資は無駄だ」、「教育は上位者がすればいい」、「失敗経験が成長させる」などといった固定観念から離れることができなくなっていないか、自問してみてください。仕事に必要な知識・技能とは何か、それを活かし、導いていくのは誰か。水は上から下に流れるもので、下から上に向かうことはありません。
社員教育をおろそかにしてきた会社のツケは、必ずどこかで表出します。そして、それを誰かが支払うことになりますが、支払い能力がなければ負債が増えるだけです。言い換えれば、先人たちが作った負の遺産を引き継ぎ、補償していく社員が育っていなければ、いつまで経っても事業発展の阻害要因はつきまとうこととなります。
人は育てるのか、育つのかと問われれば、どちらもあるとしか言えません。しかし、「育った」という結果は同じでも、その仕上がり度合が大きくことなることは想像に難くないでしょう。いずれにせよ、育った人材が会社の将来を築いていくということだけは、間違いがありません。
あなたは自社の社員に、どのように育ってほしいと願っていますか?
そして、そのために社長自身ができることはなんですか?