第18号:なぜ、社長は「社員には分からない」と言いたがるのか?
「大野さん、社員に僕の気持ちを分かって欲しいと思うのは、無理な話なんですかね?」と、ある経営者がふと発した一言です。これまで、ワンマンで社員たちを率いてきて、なんでも自分でやってきたけれど、最近伸び悩んでおり、焦りを感じているということでした。
もっと勢いよく成長したい、他社に差をつけたい、と思っているにも関わらず、社内の体制が整わないことへの憤り。社員たちが協力し合えば、うちの会社はもっと伸びると力説する。その一方で、社員たちがやることに口を出し、全てを自分が掌握してきた。社員たちを信用せず、仕事を任せてこなかったツケを支払っているとも言います。
社長には、社長なりの悩みや苦しみがあります。それを社員たちには、分かるわけがないときっぱりと言い切る社長によくお会いします。確かに、社員を雇い、会社を維持し、発展させていくことは並大抵のことではないでしょし、その苦労を理解できる社員は非常に少ないことも確かです。
敢えてお聞きしますが、社員たちに、自分の気持ちを伝えたことはありますか?
何人かの社長にこの質問をしたことがありますが、「え?そんなこと、言えるわけがないでしょ。」と返答されます。そこで、「なぜ、言えるわけがないんですか?」と、お聞きすると、「なんでって、かっこ悪いじゃん。」とかなりの確率で返されます。
このように、社長が社員たちに気持ちや感情を伝えることは、かっこ悪いことと捉えていないでしょうか。その認識は、相手が実際にどのように思っているのか、考えているのかということよりも、自分自身の見栄やプライド、もしくは、俺の気持ちなんて理解できるわけがないという思い込みに偏ったものになっていませんか。
社長が次に何をしたいのか、何をしようとしているのか、ということは社員たちの関心事です。何を言った、言わなかった、楽しそうだった、イライラしていた…と「今日の社長」、「いつもの社長」とよく観察しています。社員たちは、社長が思っているよりも、その言動をよく見ています。
ですから、言っても分からない、君たちと同じ土俵には立っていないと距離を置かれていることも、はっきりと意識していないとしても、その微妙な距離感のようなものは感じ取っています。想像してみてください。会社の役に立ちたい、社長の力になりたいと思っている社員たちが、戦力外だと暗に言われていると感じた時のむなしさを…。
間違いなく、社員たちは社長の見方です。ですから、おかしな感覚を社員たちに味合わせることよりも、社長の言いたいこと、考えていることを語り、それを共有していくことの方が、はるかに生産的です。
当たり前のことですが、怒りを伝えろということではありません。社長の苦しさや辛さ、不安や恐れを時には打ち明ける…胸襟を開くことが、社長自身の負担を和らげることにもなります。そして、社員たちとの一体感を醸成していくことに繋がります。
社長の気持ちを分かるのは難しいかもしれないけれど、それを理解したい、その悩みを解決したいと思う社員たちは必ずいます。彼らは、社長が何を言わんとしようとしているのか、どこを目指そうとしているのかを「理解しよう」と必死になります。
「会社をよりよくするために、自分は何をすればよいのか、」、「社長の目には、自分たちはどのように映っているのか」、「会社に貢献できることはなにか」と真剣に考えてくれています。ですから、どうせ社員たちには分からないと決めつけてしまうのは、宝の持 ち腐れです。
とは、言うもののいきなり社長が吐露して、予期せぬ事態を招くことがないように、今、社長に起きている現実直視することから初めてください。
あなたが、社員には分かってもらえないと思っていることはなんですか?
もし、それを社員に伝えたら、社員たちは幻滅してあなたの下を去りますか?