第107号:人材に困る企業が陥る採用の罠

「大野さん、僕は、規則を守れない奴が本当に嫌いなんです。採用面接で、規則を守れない人を見極める方法はありますか?」とコンサルティング中に、ある社長から出た質問です。堰を切ったように、社員に対する思いや愚痴を話し始めました。
この社長は、「秩序が乱れる、他の社員から文句が出る」ことが堪えられないと話していました。このように、たった一人の言動で社員や職場に与えるダメージ、自らに掛かる負荷を考えると、問題行動を起こさない社員を求めてしまうのは当然のことです。
これと似たような話があります。採用面接官研修を実施した企業のある部門のトップの方が、「先生、ストレスに強い社員が必要なんです!」と語気を強めながら迫ってきました。聞けば、メンタル不全になる社員が多くて、人材が不足して困っているとの事でした。人事部門が設定している能力と現場が求めている能力に差があり過ぎると、憤りを抱えていました。
このように、この要素は絶対に判断したいという要望は後を絶ちません。「例えばですが、××を聞いていくとできないこともないですよ。」とお伝えすると、「分かりました。ありがとうございます!面接官に伝えます。」と喜ばれる方がおります。
親切心でお伝えしているつもりですが、これは前後関係を理解していないと使えないものです。某超有名企業の経営者が、面接時に絶対している質問が話題に上ったことがあります。応募者の思考力を確かめるための質問で、その手法を取り入れる企業が増えたことを記憶しています。
質問そのものよりも、「返答をどのように評価するのか」が重要となります。しかし、多くの企業は、その質問に飛びつき、それを統一化させることで満足していました。ある会社で拝見した面接官の評価シートには、似たような質問が書かれていました。ところが、面接官たちは誰一人として、その理由を知りませんでした。
社員採用は、人員補充する観点に偏り過ぎると、これまでに手を焼いた社員を思い出し、似たような応募者を排除したくなります。お気持ちは理解できますが、それではいつまで経っても人に困る会社から脱却することは難しいと思います。
人材に困らない企業へと成長していくには、まず、社員の欠点ばかりを気にすることを辞めることです。今回取り上げた「規則を守る」、「ストレスに強い」という項目は、業務遂行上は必要です。しかし、それだけでは「仕事ができる」ということにはなりません。
さらには、どのような人材を採用しても、問題や課題が生じることがあります。ですから、問題社員が発生する背景や理由を把握し、是正や修正ができる体制を整えていかなければ定着化は促進されません。採用の失敗とその他の要因を切り分けて考慮しなければ、採用できる人材の候補は減っていくばかりです。
最後に、採用時に評価しなければならないことは、事業成長に必要な人材を見極めることです。これは、今ある状態を維持するための要員補充とは、視点が異なります。中長期的に向かうべき進路に合わせて、陣営を作り上げていく発想です。
高度な専門性で超グローバル企業から信頼を得ている企業では、幹部候補社員(中途採用者も含め)には、最新技術の習得と、それを仕事に反映させていくことを強く求めています。当たり前のことですが、優秀な人材を集めることができるかは、経営者にかかっています。
あなたの会社が、事業を成長させるために大事していることは何ですか?