第81号:新入社員でも分かるリーダーシップの話


 「うちの会社は、まだまだ小さい会社ですから社員の意見をきちんと聞かないと…」と言うのは、ある企業の経営者の方です。全社員の意見を拾い上げることは難しいけれど、幹部社員の意見や考えを聞いた上で経営としてやるべきことを決めているとのことでした。

 この話をお伺いしながら気になった点は、社員に何についてどのような意見を求めているのかということです。この経営者のお話からは、社員の愚痴や不満を聞き、それに納得はしていないけれど有効打を打ち出せていない状況にいることを理解しました。

 このような経営者の最大の強みは、社員のやる気や気持ちを活かした経営ができることです。しかし、注意をしていないと、決裁権者が誰かが分からなくなる、事態を改善するタイミングを逃す、現実を直視しないなどといった現象が起きてしまいます。

 人の声や意見を参考にしたい、大事にしたい、活かしたいという気持ちが強くなれば、真摯に話に耳を傾けていることは想像できます。ところが、こうした経営者の行動が裏目に出てしまい、社員たちは不平・不満、できない言い訳を吐き出すことに夢中になってしまいます。

 こうした事が積み重なれば、甘えや依存体質を生み出すことにもなります。経営者が無目的に話を聞くことを繰り返せば、「困っていることを解決してくれる」かもしれないという淡い期待を社員に抱かせることにもつながります。これは、民主的に組織を動かしたいという意図とは全く異なる現象を引き起こしてしまっているということです。

 このコラムでも何度か取り上げていますが、経営者と社員は同じ目線で物事を見ることはできません。この大前提を間違えてしまうから、社員に求める期待基準が分からなくなり、ただただ話を聞くことにエネルギーを費やしてしまうのではないでしょうか。その結果として、「社員が言ってくることは大体分かる」という状態に陥ってしまうのです。

 実現したいことがある。一方で、その実現に向けて社員が動かないと嘆いている暇があるならば、その理由を探ることが得策なのではないかと考えます。そして、それは自らの言動によって引き起こされていることが多いという事実を理解しておくと、真因にたどり着く近道だったりします。

 自分の言動を振り返る際に、知情意という3つの側面から考察を加えてみると、より鮮明に物事が見えてくるのではないかと思います。自己理解だけが全てではありませんが、知識に過不足がないか、情操を養っているか、意志を貫いているかと問うてみると、社員の言動が生まれる背景が見えてくるかもしれません。

 人や集団を動かすためには、リーダーシップを養うことが必要です。リーダーシップという言葉のイメージには、どうしても「強さ」や「闘争心」のようなものを持ってしまいがちです。世の中には様々な経営者やリーダーがいるように、様々なスタイルあって当然なのではないでしょうか。

 自分にあった手法を使えばよいと思いますが、「人を動かして何をしたいのか」という軸が明確になっていなければ、いつの間にか皆がバラバラなことをしている集団になってしまいます。つまり、人を動かすということは、目的とその達成に向けて周りに影響を与えることです。

 つまり、目的と達成すべき目標がなければ、人を動かしいていくのは難しいということです。裏を返せば、ここが明確に設定されていれば、社員に求める意見やアイデアも大幅に変わってくるのではないでしょうか。

 社員に賛成してもらうことで、安心していませんか?