第122号:やる気を奪う職場──経営者が見逃す「自信の崩壊」

 「何かやるたびに、周りからああでもないこうでもないって言われ過ぎて、一体どうすればいいのか分からないです。自分は、何をやっても上手くできないダメ社員なので仕方がないですよね…。」と中堅社員研修に参加していた方が、諦めたように話した一言です。

 「最近、社員の元気がない」「指示待ちばかりで、積極性が感じられない」そう感じることが増えていませんか。多くの経営者が、人事制度やマネジメント方法に問題があると考えがちですが、実は職場の人間関係が原因で、社員の「自信」が静かに削がれているケースが少なくありません。

 自信とは、「自分は役に立っている」「評価されている」「挑戦しても許される」という感覚で、「自分ならできると」思っている時に、意欲的に行動できます。これが失われると、どんな優秀な人材も動かなくなります。

 経営者や人事責任者は、「部下の自信を奪うのはパワハラ上司だ」と考えます。しかし、実際には上司だけではなく、同僚による自信の侵害もあります。たとえば、以下のような社員の存在が、周囲のやる気や自尊感情を奪っています。
 ・他人のミスを笑い話にする社員
 ・成果が出ていないのに、自信だけは過剰な社員
 ・後輩の挑戦に水を差す諦め型社員
 ・自分の仕事しか興味がない無関心型社員

 特に中途入社や若手社員は、このような「無自覚な攻撃性」にさらされることで、「この職場では何かを言ったり、やったりするのは危険だ」と学習し、自分の考えや行動を封じてしまいます。

 社員が社員の自信を奪う背景には、組織内での相対的なポジション争いがあります。人は本能的に、自分の立場を守ろうとします。変化の多い時代、昇進や評価が不透明な環境では、成果や役割ではなく「職場での居場所」そのものが自分の安全保障になります。すると、自分よりも優秀そうな人や、前向きな人が出てくると、「自分のポジションが脅かされる」と感じ、防衛本能が働きます。

その結果、無意識のうちに以下のような行動が現れます。
 ・挑戦する社員に対して「失敗したらどうするの?」と不安をあおる
 ・成果を出した社員に「運が良かっただけじゃない?」と皮肉を言う
 ・提案した後輩に「昔、同じことをやってダメだった」と過去の失敗を強調する

これらは悪意ではなく、恐れから出ているのが厄介です。言っている本人も、「自分が自信を奪っている」自覚がありません。

 このような「自信を奪う社員」の存在は、企業にとって極めて大きなリスクです。表面上は何も問題が起きていないように見えても、水面下で「挑戦しなくなる」「声を上げなくなる」「仕事に自分を出さなくなる」という現象が広がっていきます。つまり、社員の「知恵・意見・可能性」が組織から失われていくのです。

 これは、会社の競争力そのものが、じわじわと失われていくことを意味します。多くの組織では、この現象を「若手が育たない」「中堅が伸びない」と捉え、制度や研修で対応しようとしますが、真因は人間関係のダイナミクスにあることが多いのです。

 社員の自信を奪う空気が蔓延する職場では、社員の能力は発揮されず、組織の競争力も静かに損なわれていきます。これを防ぐには、経営者自身が3つの行動に踏み出す必要があります。

 第一に、自信が育つ場を明確に経営方針として掲げ、挑戦や提案を歓迎する文化をつくることです。第二に、管理職が適切に人材を評価できる基軸やその方法を見なすことです。第三に、声を上げない“沈黙している社員”に対し、経営者自らが対話を始めることです。経営者の「誰を評価するか」という判断が、職場全体の空気を決め、人材の活力を左右します。制度やスキル以前に、“人が活きる環境”を整えることこそが、社員の資産価値を最大化し、企業の持続的成長を支える鍵です。

 あなたの組織では、成果を出す人材が「育つ空気」と「潰される空気」の、どちらが支配していますか?