第103号:尊敬される社長、馬鹿にされる社長
「大野さん、社員に親しげに話しかけるなんてできないですよ!あいつらは、ちょっとしたことですぐに調子に乗って、馬鹿にしてくるんですよ。」とコンサルティング中に、ある経営者が憤りを隠さずに語ったのは、社員との関係性についてです。
社員の言動は、業績のみならず企業文化にも大きな影響を与えます。社員から信頼され、尊敬されることは企業運営において重要な要素です。その一方で、社員の中には、経営者の指示を無視する、公然と批判する、経営者の話を真面目に聞かない、反抗的な態度をする、などの行為で、経営者を軽視するような言動を取る社員が出てくることもあります。
このような行動をお説教、社員に迎合する、恐怖で社員を統制するなどで修正させようとする方もいます。しかし、それはあまりうまくいかず、社員との関わりが悩みの種となることやストレスになってしまうことも珍しくありません。社員が期待通りに動かないことが続くと、「社員の資質が悪い、考え方が悪い」と、全ては社員の側に問題があると捉えるようになってしまうことがあります。
こうした時ほど、少し冷静になって考えてほしいことがあります。社員がこうした行動を取る背景には、経営者自身の行動や言動に問題があることも少なくありません。
例えば、
・事業の方針や指針がはっきりとしていないため、すぐに言うことが変わってしまう
・判断軸が不明確で、社員の意見をやたらと聞きたがり、重要な決定を先延ばしにする
・社員の機嫌を気にする、厳しいことが言えない、と自分が負うべき責任から逃げる
・威圧感を出し、近寄り難さや恐怖心を抱かせて、自分を守ろうとする
・社員の意見を聞かない、適切な評価をしない、独断で物事を進める
などということです。自覚の有無は別として、社員が業務を進めていく上で、弊害になることがあります。一例を挙げれば、業務が計画通りに進まない、基軸がないと業務上の判断軸がぶれる、物事が進まない、職場の規律やルールを曖昧にされる、責任を社員に押し付ける、努力や成果が報われない、などは、比較的簡単に思いつくことです。
言い方が悪いかもしれませんが、社員の立場からみれば「経営者の態度や行動が、業務の邪魔をしている」と映っている可能性があるということです。誰にでも個性や特性があります。その人らしさは大切にするに越したことはありませんが、経営者のそれは、経営にインパクトを与えます。
社員に不信感を与えているのであれば、それを見直すことが必要です。「自分の性格を変えろというのか」、「社員に迎合しろということか」と怒る方がたまにいますが、そうではありません。事業を円滑に運営するための基軸を作る、社員との信頼関係を構築する、事業の拠り所になる柱を持つ、社員と誠実に向き合うといった類のことです。これらは、無くても経営はできますが、あるとないとでは雲泥の差を生むことはご理解頂けると思います。
全ての社員に当てはまると断言はできませんが、上述したような観点、意志、公平さなどを感覚的に感じ取って経営者を評価しています。もし、社員からなめられる、馬鹿にされていると感じたことがあるならば、「この人になら、ついて行っても大丈夫」という、安心感を持たせる事業運営を目標としてみてはいかがでしょうか。
あなたは、尊敬される経営者になりますか?