第4号:経営者のための採用力を鍛える視点

 企業の採用活動ほど驚きを得られる場はないと思っています。選考過程・その方法、知識の有無、奇抜さなどその会社らしさがよく見て取れます。とある企業の役員面接で、「自分を動物に例えると何ですか?」と応募者に質問していることを聞き、とても驚きました。その会社の役員達いわく、わかるのは反応の良し悪しで、それ以上でもそれ以下でもないけれど、聞かずにはいられない定型質問になっているとのことでした。

 採用活動におけるその会社らしさとは、応募者が入社後に起こりそうなことを選考過程で、体験していること(させていること)全てを表します。それは、意図して作られたものと意図せずにそうなっているものがありますが、採用活動を通じて応募者に与えている情報、経験のすべてが“らしさ”として応募者に伝わります。

 新卒採用、中途採用に関わらず、一般的に優秀と言わる人材は、選考が進んでいる会社のことをよく観察しています。この会社でやりたいことができるのか、人間関係は良さそうか、将来性はあるか、など多岐にわたりその会社の良し悪しを見極めています。

 先ほどの“動物に例える”なら、と質問した会社のことを応募者はどのような会社と判断するのか。意図が分からない質問される→そんな質問で評価される→論理的に物事は進まない、理不尽なことが多そうだ、と辞退する。見方を変えれば、面白い質問をされる→楽しい時間を過ごせた→自由な発想で仕事ができる→入社しよう。

 別の例を挙げるなら、誰の面接なのか分からないほど社長が話し続ける会社は、現場の声は届かない。役員が突然立ち上がり、「君が必要だ!一緒に働こう!」と握手を求めてくる会社は、時代錯誤甚だしい。単なる雑談で面接が終わる会社は、仕事意識が低い。勝手に決めるな!と思うかもしれませんが、イメージを決めるのは応募者です。

 採用力とは、単純に人を採用することができるか否かを問うているものではありません。自社にマッチした母集団を形成し、自社のファンを増やしながら、効率的かつ効果的に仕事に必要な能力や適性を見極めていけるかです。

 ここまでお読み頂ければ、社長と担当者の採用における着眼点は全く異なることにお気づきだと思います。担当者は円滑な業務運営、採用数の確保がその仕事の中心です。一方、系統立てた採用体系の構築、面接官の質の向上、自社のイメージ形成、採用者の質を高めるといった内容は、経営に直結したテーマであり、担当者が踏み込んで意見することが難しい内容です。

 事業成長に必要な人材、その能力とその見極め方をあいまいにしたまま、多額の求人費を支払い、意図のない質問ややり取りで時間を無駄にしてしまうことは、決して珍しいことではありません。だからこそ、そこには新たにチャレンジできる施策や改善できることが、幅広くあります。

 「そもそも論でさ、うちみたいな会社は応募者が来ないんだよ!」とお叱りを受けるかもしれません。あるいは、「この手のことは大手が考えることで、うちレベルの会社には必要ないよ。」と言われるかもしれません。

 多くの経営陣が勘違いしてしまいがちなことに、大手企業は採用に困らないという思い込みがあります。本当に大手だから苦労しないと思いますか?何も手を打っていないと思いますか?大手だから特別なんてことはないです。むしろ、大手だからこその悩みは多いと思いませんか?どこの業界でも、どのような規模でも採れる会社は、採るための戦略を立てています。

 採用のミスジャッジは、大きな損失を生みます。どこの会社もそれをよく理解しているにも関わらず、採用のプロセスを軽視しています。そこには、「とりあえず入社さえしてくれれば…」「現場に入ればなんとかなる」といった現場への甘え、「人を見る目に狂いはない」とおごりは生まれていないでしょうか?

 そうした採用に対する姿勢が、経営の足かせとなっている可能性はないでしょうか?

 経営トップが主体となり自社の採用力を高めていく面白さは、採用できる人材が大きく変化していく過程をみなで共有でき、なおかつ、採用に携わる社員の人材の評価眼を伸ばす機会を提供できることです。それは、人材の資産価値を高めることにも直結します。

 一度、自社の採用力の現状を確認してみてはいかがでしょうか?