第25号:経営者の盲点だった?!人件費削減の未来
「大野さんね、人材の資産価値拡大化!そんなこと、経営者が考えているわけないでしょ!あなたがやろうしていることに、ニーズなんてないよ。」と、ある上場企業の人事部長からご指摘を頂きました。この手の反応は嫌という程受けているので、あまり驚きはありません。
その一方で、人的資本経営という経営に対する新しい指標が設けられ、なおかつ、ビジネス環境が激変しているにも関わらず、経営者や人事部門の責任者が人材への認識を維持し続けようとしていることに、何とも言えない虚しさを覚えます。
優秀で、文句を言わず、長く働くことができる人材を安く使えないかを考えるのは、経営者の性です。しかし、この考え方が上手く機能するには、労働市場に人があふれてかえっているという前提条件なければなりません。日本の人口がピークだった2004年からすでに20年近くが経とうしています。
確かにあの頃は、人が辞めようと変わりはいくらでもいました。会社の常識は、世間の非常識だと豪語することもできました。ところが、今の時代はこのような高姿勢では、経営が成り立たなくなっているのは周知の通りです。
このところ人材不足や大量退職で人材に悩んでいる企業の経営者は、まさに、安く人を使い倒すことに重きを置きすぎていたように映ります。最大限の負荷を与え、人件費を低く抑えることに異様なまでに執着したのではないでしょうか。その代表例の1つが、運送業界ではないかと考えています。
1970年代のトラック運転手は憧れの仕事でした。バブル期には、稼げるドライバー職として有名だった運送会社もありました。数十年経った今では、長時間労働、低賃金などの人々の憧れの職業だった面影はありません。当たり前ですが、魅力がなくなった仕事に、人を集まりません。想像ですが、この数十年間この業界は応募してくる人材の量・質ともに下降傾向となっていたのではないでしょうか。
経営を行う上で、目先の利益の確保は必要です。とはいうものの、行く先の見えない目前対応は、行き当たりばったりでしかありません。この業界を引き合いに出すならば、今起きている状況を過去数十年の間に予見することができなかったのかと、甚だ疑問です。
運送業界を例にあげましたが、これまでこの仕事に就きたいと夢や希望の的であった職業も似たような現象が見えつつあります。その代表が、国家公務員、医師、看護師、教員などです。やりがいがあり稼げた職業が、やりがいや稼ぎ以上の負荷を追わなければならない仕事へと移り変わっているということです。
人気の職種や業界には、時代が反映される一面もあります。流行りだけで職業を決めるわけではないでしょうが、人を惹きつける力が薄れれば、組織運営にも業務にも経営にも大きな影響を与えるようになっていくのは言わずもがなです。
ここまで例を挙げた業界のみならず、企業と人材、人材と仕事について改めて問い直す時期に突入しています。その必要性は政府が出している指針を見れば、一目瞭然です。ところが、多くの経営者には、この領域に取り掛かる意義や方向性を見出せていません。
その理由や背景は、まさに冒頭で明記したように人に資産価値なんてないということなのでしょうか。ということは、他社が消耗品だと思っているものにいち早く、資産価値をつけていける方が市場の中では圧倒的優位に立てる可能性があるということでもあります。
人材の資産価値を上げるということは、人材を「人財」と表記することではありません。そんな言葉遊び程度のことを自慢気に打ち出し、満足なんてしないでほしいと本気で思っています。
あなたの会社は、安く人を使い倒そうとしていませんか?